2011年08月14日 02:16

井上夢人「魔法使いの弟子たち」読了。レベル6超能力者の能力が禁書の一方通行なのはオマージュかな。

魔法使いの弟子たち
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井上夢人さんの最新作「魔法使いの弟子たち」読了。面白い超能力SFでしたね。感染した人間のほとんどを死に至らしめるドラゴンウイルスに感染しながら回復した三人が超能力で、ドラゴンウイルスの後遺症として三人とも強力な超能力を身につけます。この超能力が圧倒的で、三人には人類を害しようという意思は全然ないにも関わらず、人類(主に警察や機動隊)と戦闘になり、警察や機動隊が彼らに攻撃しかけては自滅してゆくというストーリーが大筋です。

彼ら三人の超能力者は三人ともドラゴンウイルスの後遺症で超能力が現れた者全員に発現する基礎能力として、超能力SFライトノベル「とある魔術の禁書目録」の一方通行と同じ能力「アクセラレータ」(あらゆる攻撃を全自動で反射、本作の場合は常に作動しており本人もOFFにすることはできない)を持っています。しかも、それにプラスして、主人公は世界のあらゆる過去と未来を自由に見渡すことができる万能的な過去視にして未来視、ヒロインは山すら持ち上げるようなとてつもない念動力(空を飛んで高速移動なども自由自在)、もう一人の超能力者は憑依能力、そして三人とも超能力をいくらでも使え、力をいくら使っても体力を全く消耗しません。しかもドラゴンウイルスの力で身体は常に最大に健康でポテンシャル最高の状態(おそらく20代前半ぐらいで年齢固定不老、老年の場合は若返る)、もう学園都市超能力者総出で掛かってもこの三人には叶わないんじゃないかと思われるチート超能力者達です。これはもうレベル6ですね…。

一方通行(アクセラレータ)【能力名】
http://www12.atwiki.jp/index-index/pages/847.html
学園都市最強のレベル5、通称『一方通行』が所持する、 運動量・熱量・光・電気量etcといったあらゆるベクトル(向き)を観測し、触れただけで変換する能力。 普段は「反射(ベクトルの反転)」に設定されており、 身体の周囲を覆うわずかな保護膜に触れた全ての攻撃を、自動的に跳ね返してしまう。 保護膜に接してさえいれば密着していなくともベクトル操作が可能であり、 『膜に接触している』巨大な物体として、暴風操作や自転の操作を行うことすら可能。

で、彼らを襲ってくる連中は攻撃を反射されて死ぬんですが、警察とかが無理やり彼らを拘束しようとすると能力反射で警察官が死ぬので、警察と彼らは敵対することになります。この作品の警察のやろうとしていること無理ゲー過ぎる…。アクセラレータ能力(攻撃全反射能力)が発動している相手を捕らえようとするとか、自殺行為です。警察は超能力の存在を頑なに認めないので、彼らに襲い掛かってきては攻撃を反射されて壊滅し、彼らはそれに呆れながら、警察と鬼ごっごすることになります。彼らは基本的に善人なので、警察官に死人を出したくないので、警察から逃げているんですが、警察は勝手に攻撃してきて攻撃反射されて自滅するという…。

「どうやら、ドラゴンウイルスは、我々を人類最強の存在にしてしまったようだな」

「人類最強……」

京介は頭を掻いた。
「最強であることが最悪なんだってことを、はじめて知ったよ。最もタチが悪いのは、俺達はこの〈防衛システム〉を一切コントロールできないってことなんだ。体内のバクテリアを俺達は無意識に退治する。先生方の説明では、それと同じことらしい。自分に襲いかかってくるものを、俺達の〈防衛システム〉は自動的に排除してしまうんだ。めぐみちゃんは自分の危機を回避するために身構えている必要はないんだ。(死角からの攻撃であろうと、どんな攻撃であろうと)俺達を殴ろうとして手を振り上げれば、その腕の骨が粉微塵に砕けてしまうんだから」(中略)

「あるいは」興津が口元を歪めた。「なにもかも無視して、元の生活に戻るってことかな」

「戻る?」

興津は、うんざりしたような表情で、山裾に目を向けた。
「警察が逮捕しに来ても一切取り合わず、奴らがいくら怪我をしようが死のうが、知らん顔をしているのさ。奴らは、勝手に我々を恐れ、勝手に犯罪者にし、勝手に捕まえようとする。ところが、誰も我々を捕まえることはできない。手を触れることすらできない。奴らは、勝手に私らに飛びかかり、勝手に怪我をする。勝手にピストルを撃ち、勝手に死ぬ」

「…………」

「どうして我々がここまで逃げてきたか。その理由すら、世間の連中には理解できない。仲屋君の駆けつけるのがあと少しでも遅かったら、あの美術館前は大変なことになっていた。あのままいったら、何人死んだんだ?」

興津は、京介を振り返った。

「十七人」

答えるとめぐみが、うそ……と呟いた。

「仲屋君は必死でそれを阻止した。これ以上たくさんの人を殺したり傷つけたりしたくなかったからだ。だから我々は今ここにいる。しかし、連中にその思いは届かない。今や、奴らにとって、我々は摩天楼に現れたキングコングのようなものだ。なにがなんでも退治しようとするだろう。ところが悲しいことに、我々はドラゴンウイルスの申し子なのだ。不死身の龍なのだ。だとすればさ、いっそ、知らん顔をして研究所に戻り、奴らがやることなどほったらかしておくのもいいかと思うのさ。奴らの周囲には、死屍累々の惨状が出現することになるかも知れんがね。まあ、そのうち、奴らも我々には手出しはできないのだと学ぶだろう」
(井上夢人「魔法使いの弟子たち」)

超能力に目覚めた数少ない新人類と、そんな新人類を迫害する旧人類という、ヴァン・ヴォークトのSF「スラン」から続く古典的SFのストーリーに大筋準拠ですが、本作超能力者の場合は、彼らの能力が凄まじく圧倒的で、全人類一丸となっても超能力者一人にすら太刀打ちできないであろう絶対的能力な上、彼らをサポートする研究所(ドラゴンウイルスを開発してバイオハザードを起こした研究所)側の人々がいるので、超能力者側に悲壮感はあまりないですね。旧人類はドラゴンウイルスにより滅んでゆき、僅かに生き残った人々が超能力を身につけた新人類として進化して生まれてくるという流れも、この手のSFとしてありがちな展開です。ただありがちだからつまらないということはありません。井上夢人さんの文章には力があって、ありがちな展開でも、とても面白く読ませてくれます。面白く読めた小説ですね。

スラン SLAN A・E・ヴァン・ヴォークト 1940
http://www.inawara.com/SF/H075.html
海外ではどうか知らないが、日本において超能力SFの代表作・古典を問われれば、今もって本書「スラン」が挙げられるに違いない。
「スランだ!殺せ!」
 なんといっても、竹宮恵子の漫画「地球へ」をはじめ、萩尾望都の初期作品群など多くの漫画・アニメに影響を与えた作品であることは間違いない。
 超能力者、異能者は殺さなければならない。迫害しなければならない。そうでなければ、自分たちがやられるのだから。迫害され、殺されるものは、なぜ自分たちが狩られなければならないのか、理解できない。人間と違う能力を持っているのは自然なことではないか。人間となぜ共存できないのか。迫害されるものの悲哀。狩られるものの正義。
 こういうところが心をくすぐるのだ。

本作「魔法使いの弟子たち」面白く読めました。ただ…本作ラストだけはいただけない…。かなりありがちで反則的なリセット夢落ち的ラストなので、それまで面白く読んでいた分、う〜ん…って感じはしましたね。ラストは賛否両論だと思いますが、僕としては、物語で描かれるこの世界の未来が見たかったので、全てをリセットしてしまうラストには否定的立場ですね…。ずっと描かれてきた物語世界の未来、見たかったなあ…。

「世界中のいろんなところの未来を見に行った。数え切れないほど見てみたんだ。めぐみちゃんが勝てない相手は運命だよ。運命には勝てない」
「やっぱり……未来はないってこと?」

京介は岩棚の向こうへ目を上げた。山は緑で覆われていた。芽吹いたばかりの透けるような緑が、遥か向うまで続いている。

「なにもないと言えば嘘になる」
「どんな未来?」
「人類にはないよ。人類は、あと数年しか持たないんだ」

めぐみが眼を見開く。

「……数年。滅びるの?」
「人類は、ね」
「じゃあ、なにが?」と、めぐみは後ろを振り返って、サル達を指差した。「あの子達が、地球を継ぐの?」

京介は首を振った。
「ヤツらじゃない」
「じゃ、なにが?」
「俺達だ」
「…………」

めぐみが京介を凝視した。

「すでに、始まっている。竜脳炎に罹ったにも拘わらず、死の淵から生還した人達が、世界のあちこちで現れ始めているんだよ。彼らは、俺達と同じだ」
「能力を……持ってるってこと?」

京介は首を竦めてみせた。
「数は少ないけどね。日本にも、すでに俺達の他に八人ほど生まれているようだ。俺が見ていないだけで、もっといるかもしれないが、正確な人数を知りたいとは思わないよ。どっちみち、さほどの数じゃない」
「あたしたち?」

ああ、と京介は頷いた。
「俺達の明るい未来だ。逆らうことのできない未来だ」
(井上夢人「魔法使いの弟子たち」)

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