2011年05月15日 01:55

魔法少女まどか☆マギカ外伝「魔法少女おりこ☆マギカ」を推理する。self-fulfilling prophecy、予言の悲劇かな…。

魔法少女おりこ☆マギカ (1) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
魔法少女おりこ☆マギカ (2) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
脳髄工場 (角川ホラー文庫)

魔法少女おりこ☆マギカを読み返しています。これ、主人公おりこの行動の目的が隠されており、ミステリータッチになっていて、推理してゆくのが楽しい作品ですね。第1巻で分かる情報から、表題の主人公おりこの目的とそれがどうなってゆくかを推理してみます。「」内はおりこ☆マギカ本文からの引用です。

おりこ(美国織莉子)の目的は、回想シーンを見るに、彼女の敬愛していた父親にして政治家(描写から見るに彼女の両親は既に故人)、美国久臣の選挙区である町、見滝原市を守り、幸せにすることだと思われます。「この国が幸せになるためには、この町がまず幸せにならないとね もちろん織莉子のためにもね」(織莉子の父親)

彼女には、非常に限定された形ですが、魔法によって未来を予知する能力があり、それによって、鹿目まどかが一撃で魔女ワルプルギスの夜を屠り、そして魔女クリームヒルトとなって見滝原を、そして世界を滅ぼすところを予知してしまった。彼女はこの破滅を防ぐため、行動を開始します。「あれは誰にも倒せない あれを解き放ってはいけない どうすればいいの…?」(織莉子)

しかし、彼女の未来予知能力は非常に限定的なものなので、どこの魔法少女が、どのように、クリームヒルトとなるかは分からない(分かっていたら即座に鹿目まどかを殺害すると思われる)。分かるのは、見滝原市で魔法少女が魔女クリームヒルトとなり、見滝原を滅ぼすということだけ。そのため、織莉子の狂信的な下僕である魔法少女呉キリカを使い、見滝原市近辺の魔法少女を皆殺しにしているのだと思います。「魔女の結界内に死体があったのは偶然だったのだろうか 魔女退治に来る魔法少女を待ち伏せしていた?殺し方も残虐で『殺すために殺した』ように見えた。そんなことをしたら他の魔法少女だって黙ってはいないでしょう…なのに何故?目的は魔法少女の殲滅?」(巴マミ)

彼女は未来予知能力で何かを見て、千歳ゆまを魔法少女にしましたが(まずはその下準備として、織莉子は魔女を誘導して千歳ゆまの両親を襲わせ殺害したと思われる、そこに佐倉杏子が現われて千歳ゆまを助けることまで予知していたかは不明)、これが分からないんですよね…。ゆまが魔法少女になることと、魔女クリームヒルトの誕生を防ぐことは織莉子の考えのなかで関係があるはずなんですが、それが読めない(推理できない)…。

ゆまの能力は他者を超回復する能力ですから、それが、何かのターニングポイントでおりこに有利なように働くとは思うのですが…うーん、分からないです…。

今後の展開としては、おそらく、おりこが予知能力を使って行動することで、まどかが魔女クリームヒルトになってしまうという最悪の悲劇的展開ではないかなと予想します。おりこは既に殺人などに手を染めており、まどか☆マギカ本編の展開から見ても、キュゥべえの行動のような「目的は手段を正当化する」という行動を正当化する展開には決してならずに、逆に「邪悪な手段に手を染めたことで破滅する」という展開でしょう…。

予知能力によって予知した未来を防ごうとして逆に予知した未来を実現してしまう悲劇的な展開、self-fulfilling prophecy(予言の自己実現)ですね…。エディプス王が有名です。これは未来予知のパラドックスとして有名なもので、このようになります。

「未来を予知するとき、その未来の予知には、『未来を予知したことで、その予知によって受ける影響による行動』すらも、未来予知の中に含まれている。よって、予知された未来から逃れることは誰にも出来ない」

破滅的未来を予知してしまったゆえに、その予知を避けようとして行った行動により、その予知が成就されてしまうというのが、古典悲劇、特にギリシア悲劇に多く、その最も有名なものがエディプス王です。エディプス王の父親ライオス王は、『お前は息子に殺され、息子は母親と交わるであろう』という呪わしい未来予知を防ぐ為に行動して、その行動の結果、その破滅的予知が成就されてしまうのです。

もう一つの特徴は、予知は謎めかして行われる(=予言は不透化性や決定不可能性を持った限定的な形態で行われる:柄谷行人「言葉と悲劇」)がゆえに、それを防ぐことができないというものです。エディプス王においても、ライオス王に「あなたが呪わしい予言された未来を防ぐ為に子供を殺すという決断を下すゆえに、呪わしい予言が成就するのですよ」とは予言は教えてくれません。ただ、呪わしい未来が訪れるということを予言するだけで、どういう岐路でその予言が成就するかということは、ぼやかされるのです。結果、破滅的未来を防ぐ為に取った行動が、破滅的未来に繋がってしまう。社会学者ロバート・K・マートンは、これを、self-fulfilling prophecy(予言の自己実現)と名づけました(社会理論と社会構造)。

言語の両義性がいちばん問題となるのは、そしてそこにおける不透化性や決定不可能性が悲惨な錯誤に結びつくのは予言においてでしょう。『マクベス』は、魔女の予言、つまり魔女の言葉からはじまり、それに終始するわけですね。また『エディプス王』では「父を殺し、母を犯す」という神託があり、彼はそこから逃れようとすることで、結果的にそれを実現してしまいます。
(柄谷行人「言葉と悲劇」)

予言の自己実現
http://www.let.osaka-u.ac.jp/~irie/kougi/kyotsu/1999/9902prophecy.htm
<「予言の自己実現」の定義>
マートンは「予言の自己実現」(あるいは「予言の自己成就」)を次のように定義している。
「自己成就的予言(self-fulfiling prophecy)とは、最初の誤った状況の規定が新しい行動を呼び起こし、その行動が当初の誤った考えを真実なものとすることである。」

<銀行の例>
 「銀行資産が比較的健全な場合であっても、一度支払不能噂がたち、相当数の預金者がそれをまことだと信ずるようになると、たちまち支払不能の結果に陥る」
 「銀行の財政状態の安定性は、一連の状況規定に依存していた。すなわち、人々が生活してゆくための経済的約束の込み入った体系が揺るぎないものでという信念に依存していた。ところが、一度預金者が状況を異なったふうに規定し、また一度彼らが約束の果たされ得る可能性について疑念を抱くに至ると、そのときはじめてこの不真実な決定の結果は十分に真実なものとなったのである。」(訳384)

<試験の例>
 「試験ノイローゼの場合を考えてみよう。きっと失敗するに決まっていると思いこんでしまうと、不安な受験生は勉強するよりも、くよくよして多くの時間を浪費し、いざ試験にのぞんでまずいことになる。最初の誤った不安は、いかにももっともな不安に変形してしまう。」(訳384)

<戦争の例>
 「二国間の戦争は「不可避である」と信ぜられている場合がある。この確信にそそのかされて、二国の代表者たちの感情はますます疎隔し、お互いに対手の攻撃的動きに不安を抱き、自分も防衛的動きをして、それに応ずることになる。武器、資材、兵員が次第に大量に蓄えられ、挙げ句には戦争という予想通りの結果をもたらすのである。」(訳384)

 マートンはこの予言の自己成就のメカニズムを一般的に次のように説明する。
「この寓話がわれわれに教えるところは、世間の人々の状況規定(予言または予測)がその状況の構成部分となり、かくしてその後における状況の発展に影響を与えるということである。これは、人間界特有のことで、人間の手の加わらない自然界ではみられない。ハレー彗星の循環がどんなふうに予測されようと、その軌道には何の影響も及ぼさない。しかし、ミリングヴィルの銀行が支払い不能になったという噂は、実際の結果に影響を与えたのである。つまり、破産の予言が成就されたのである。」(訳384)

では、なぜ「状況規定」が「状況の構成部分」となるのだろうか。人々は、確かに、状況についての一定の予期(予言)に基づいて、行為を決定する。しかし、このとき、この状況の予期(状況規定)が、状況の構成部分になるとは、どういうことだろうか。
  
状況→状況規定(認識や予言)→行動→状況の変化

おりこ☆マギカもこの古典的悲劇の岐路を辿るのではないかと僕は思いますね…。おりこ☆マギカのカバーを取ると、佐倉杏子・巴マミ・千歳ゆまの死を暗示するような不吉な絵ですし、おりこ☆マギカは次巻で完結、おそらく全てが破滅的な方向に進み、皆死んでしまうのではないかと思います…。

クリームヒルトの復讐はこうして首尾よく果たされたのであった。
(ニーベルンゲンの指輪)

こういったギリシア悲劇に連なる古典的悲劇を魔法少女というフォーマットにおいてきっちりと見事に描けそうなところに、僕はまどか☆マギカの懐の深さを感じて、感動致しますね…。予言の自己実現については、小林泰三さんの短編ホラー小説集「脳髄工場」がこの問題を題材とした物語集で、とても面白く、お勧めです。以下、全て「脳髄工場」収録作より。

「警告しておくけどね」画面の外と中でデバッガが言った。「未来を見るものは必ず、後悔し、そして不幸になる。あんたにその覚悟はあるのかい?」

少年の指先はぶるぶると震えた。

画面の中と外の二人の自分は今や完全に同期している。もしこのまま画面の中の自分を進めたらどうなるのか、画面の中の自分が先に行動し、画面の外の自分がそれをなぞることになるのか?

いや、そんなことはありえない。
そんなことが起こったら、自由意志は存在しないことになってしまう。

「見るも見ないもあんたの勝手だ」画面の外と中でプログラマが言った。
「このまま、何も見なかったことにして、家に帰ってもいい。そうすればあんたには平穏な人生が待っていることだろう」画面の外と中でデバッガが言った。

画面の外と中で、少年は絶叫し、時間を進めた。
「やっぱり、あの子は自分の未来を見たね」プログラマはほくそえんだ。
「システムが予測したとおりだね」デバッガはほくそえんだ。
(小林泰三「脳髄工場」)

わたしは毎日未来の自分の指示どおりに行動した。未来のわたしはギャンブル、宝くじ、株、先物取引、など全ての結果を握っているのだ。わたしは彼女の言いなりになるだけで、あれよあれよと巨万の富を築いた。(中略)

「若い男が声をかけてきたでしょ」
「ええ。でもタイプじゃなかったから、相手にしなかったわ」
「すぐに彼を見つけて、デートの約束を取り付けるのよ。彼は王子なの」
「えっ!本当に!!じゃあ、イリジウムなんて、もうどうでもいいわね。これからアタックしに行くわ」
過去のわたしは電話を切った。

妙な感じがした。そして、過去に電話をしたのは最初の時以来、これで二度目だったことに気がついた。あれからは、いつも未来からかかってくるばかりだったのだ。

でも、そんなことは気にしなくていいわ。だって、わたしは王妃になるんですもの。

テレビの中では、王子が見知らぬ娘と幸せそうにならんでいる。

過去のわたしに指示は終っている。だから、今あそこにはわたしがいるはず。じゃあ、ここにいるわたしは?

そうだったのだ。今になってすべてがわかった。わたしに(未来から過去に通信できる携帯を使って)電話してきた未来のわたしたちはみんな失敗していた。その失敗を(未来の自分が過去に行った行動とは別の行動をとることで)わたしがなかったことにしてきた。だから彼女たち自身もなくなってしまったのだ。過去を改変することは、現在の自分を否定することだったのだ。

過去の自分に電話して、さっきの指示を取り消さなければ取り返しのつかないことになる。わたしは慌てて、携帯電話に手を伸ばした。
しかし、その手はすでに朦朧としていて、携帯電話とともに空間に溶け込み始めていた。
消え行く意識の中、テレビの中に微笑むわたしの顔が見え

(小林泰三「声」)

今、わたしの手元には一通の走り書きのメモがある。おそらくこれはビンツー教授の遺書ということになるのだろう。家族は警察にもそれを見せることはなかったが、真実を知りたいわたしの熱意に負けて、ついに手渡してくれたのだ。それを読み終えた今、わたしの手の震えは止まることはない。ああ。こんなもの読まなければよかったのに。テレビにはまさにRに上陸しようとするHCACSの姿が映されていた。全世界の人々は歓声を上げているのだろう。だが、わたしの喉からは掠れた嗚咽が洩れるばかりだ。わたしの手から遺書が床に落ちた。それにはこんな言葉が書かれている。

馬鹿者どもめが!まだわからんのか?全ては逆だったのだ。我々はCに対抗するために我々自身の意志でHCACSを造ったと思い込んでいただけなのだ。HCACSこそがCだったのだ。我々人類は Cthulhu を復活させるための切っ掛けとして用意された、たったそれだけの役目しか持たない種族なのだ。
(小林泰三「C市」)

全ては逆だったのだ。わたしはあれを誕生させないためにわたし自身の意志で行動していたと思い込んでいただけなのだ。わたしの行動こそがあれの目覚めの鍵だったのだ。わたし美国織莉子は魔女クリームヒルトを誕生させるための切っ掛けとして用意された、たったそれだけの役目としての魔法しか持たない魔法少女だったのだ。

参考作品(amazon)
魔法少女おりこ☆マギカ (1) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
魔法少女おりこ☆マギカ (2) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
脳髄工場 (角川ホラー文庫)
ギリシア悲劇〈2〉ソポクレス (ちくま文庫)
マクベス (光文社古典新訳文庫)
ニーベルンゲンの歌〈前編〉 (岩波文庫)
ニーベルンゲンの歌〈後編〉 (岩波文庫)
言葉と悲劇 (講談社学術文庫)
社会理論と社会構造
魔法少女かずみ☆マギカ 〜The innocent malice〜 (1) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
魔法少女まどか☆マギカ (1) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
魔法少女まどか☆マギカ (2) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
魔法少女まどか☆マギカ (3) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
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