2011年05月13日 12:19

ドイツの著名な社会学者ウルリッヒ・ベックさんの朝日新聞インタビュー記事「原発事故の正体」全文引用いたします。

世界リスク社会論 テロ、戦争、自然破壊 (ちくま学芸文庫)
震災列島 (講談社文庫)

「危険社会」「リスク社会論」などの現代社会のリスクに重点をおいた社会学の分析者、世界的に有名なドイツの社会学者ウルリッヒ・ベックさんが日本の福島第一原発事故について語った「原発事故の正体」というインタビューが本日の朝日新聞朝刊オピニオン面に載っております。非常に重要な、我々日本人の今後の進路を考える上で大切なことを述べていると僕は思います。以下、ベックさんへのインタビュー記事を全文引用いたします。

ウィキペディア「ウルリッヒ・ベック」
ウルリッヒ・ベック(Ulrich Beck, 1944年5月15日 - )は、ドイツの社会学者。ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(ミュンヘン大学)およびロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの社会学教授。

朝日新聞2011年5月13日朝刊オピニオン面

「原発事故の正体」(ウルリッヒ・ベック)

インタビュアー
−−今日の世界にとって、福島の事故はどんな意味を持つのでしょう。

ウルリッヒ・ベック
「あのような大災害がおきたときに、私たち人間は何の備えもできていない、ということです」

−−あのような、とは?

「人間自身が作り出し、その被害の広がりに社会的・地理的・時間的に限界がない大災害です。通常の事故は、たとえば交通事故であれ、あるいはもっと深刻で数千人がなくなるような場合であれ、被害は一定の時間、一定の社会グループに限定されます。しかし、原発事故はそうではない。新しいタイプのリスクです」

「そんな限界のないリスクをはらんでいるのは、原子力だけではありません。気候変動やグローバル化した金融市場、テロリズムなどのほかの多くの問題も同じような性格を持つ。近代社会はこうしたリスクにますますさらされるようになってしまいました。福島の事故は、近代社会が抱えるリスクの象徴的な事例なのです」

−−なぜ、そのようなリスクが広がっているのでしょうか。

「近代社会では、人間の意思決定がリスクを生み出しているからです。近代化というプロセスと深く結びついています。新しいテクノロジーが開発されたり、投資活動が進んだりしたから生じているのです」

−−日本では、多くの政治家や経済人が、あれは想定を超えた規模の天災が原因だ、と言っています。

「間違った考え方です。地震が起きる場所に原子力施設を建設するというのは、政府であれ企業であれ、人間が決めたことです。自然が決めたわけではありません」

「18世紀にリスボンで大地震が起き、深刻な被害が出たとき、当時の思想家たちは、どうして善良な神がこんな災害をもたらすのかと考えた。今日、神を問題にするわけにもいかず、産業界などは自然を持ち出すのです。しかし、そこに人間がいて社会があるから自然現象は災害に変わるのです」

「これはとても重要なことですが、近代化の勝利そのものが、私たちに制御できない結果を生み出しているのです。そして、それについてだれも責任を取らない、組織化された無責任システムができあがっている。こんな状態は変えなければいけません」

−−原発が大災害を引き起こす確率は低いと言われていました。

「たとえ確率が千年か一万年に一度だと言われていても、こういうことは起きるのです」

「19世紀、欧州などでは、近代という時代が生み出す不確実性やリスクに対処するための仕組みが開発されました。たとえば、失明したり腕を失ったりする危険に向き合うために、お金で補償する保険という仕組みが発達した。これは進歩を可能にするために社会契約だったともいえます」

「ところが、保険制度は原子力事故のリスクに対応しきれません。備えられている額は、必要な額よりははるかに少ない。実際のところ、保険という仕組みを超えているのです」

−−つまり、問題の大きさに見合う解決策がないということですか。

「現代の問題を19世紀の枠組みで解決しようとするのは誤りです。たとえば、複数の化学工場からの有害な排気にむしばまれた町の住人が、賠償を求めて裁判を起こす。ところが被害は明らかでも因果関係がはっきりしないからと裁判で負ける。また、チェルノブイリ原発事故による犠牲者について、数十人という見方もあれば、はるかに多い数を挙げる説もある。なぜ、そうなるのか。事故の影響が広範で複雑で長期にわたるからです。チェルノブイリでは、まだ生まれていない人が被害者になることだってあるかもしれない」

「私たちが使っている多くの制度が、元来はもっと小さな問題のために設計されていて、大規模災害を想定していないのです」

「私たちは、着陸するための専用滑走路ができていない飛行機に乗せられ、離陸してしまったようなものです。あるいは、自転車用のブレーキしかついていないジェット機に乗せられたともいえるかもしれない」

−−今、日本では被害の補償問題でもめています。

「問題が起きて、その負担を国や市民に回すのなら、それは資本主義ではありません。同じ議論は金融システムについても言われました。巨大銀行は危機に備えなければならなかったのに、そうしなかった。そして国がその後始末に乗り出した。これはまるで社会主義、国家社会主義(ナチス)です」

−−近年、温暖化問題への解決策として再び原子力への注目が集まっていました。

「原子力依存か気候変動か、というのは忌まわしい二者択一です。温暖化が大きなリスクであることを大義名分に『環境に優しい』原子力が必要だという主張は間違いです。もし長期的に責任ある政策を望むのであれば、私たちは制御不能な結果をもたらす温暖化も原発もさけなければなりません」

「ただ、明日にでもすぐそうしなければならないと言っているわけではありません。多分長い時間が必要。しかし、そこを目指せなければならない。ドイツ政府は福島の事故の後、原子力政策を検討する諮問委員会を作りました。私も参加していますが、政府に原子力からも温暖化からも抜け出すタイムテーブルを求めることになるでしょう」

−−第2次世界大戦後、日本の政治指導者たちは原子力を国家再建の柱の一つと考えました。しかし福島の事故では、それが国家にとって脅威となっています。

「昨年の秋、私は広島の平和記念資料館を訪れ感銘を受けました。原爆がどんな結果をもたらすかを知り、世界の良心の声となって核兵器廃絶を呼びかけながら、どうして日本が、原子力に投資し原発を建設してきたのか。疑問に感じました」

「確かに原子力政策は国家主権と深く関わっている。ドイツにもそうした面はあるけれど、今、ドイツではこういう考えが広まっています。他国が原子力にこだわるなら、むしろそれは、ドイツが新しい代替エネルギー市場で支配権を確立するチャンスだ、と。今は、この未来の市場の風を感じるときではないでしょうか。自然エネルギーへの投資は、国民にとっても経済にとっても大きな突破口になる」

−−制御不能なリスクは退けなければならないといっても、これまでそれを受け入れて来た政治家たちに期待できるでしょうか。

「ドイツには環境問題について強い市民社会、市民運動があります。緑の党もそこから生まれました。近代テクノロジーがもたらす問題を広く見える形にするには民主主義が必要だけれど、市民運動がないと、産業界と政府の間に強い直接的な結びつきができる。そこには市民は不在で透明性に欠け、意志決定は両者の密接な連携のもとに行われてしまいます。しかし、市民社会が関われば、政治を開放できます」

「ドイツのメルケル首相は、温暖化問題の解決には原子力は必要だと考えていました。しかし、福島の事故で、彼女は自分が産業界の囚われ人であったと感じたのではないでしょうか。彼女は初めて市民運動の主張をまじめに考えなければならなくなり、委員会を作り、公に議論する場を設けた。産業界とは摩擦が起きるでしょう。しかし、これは政治を再活性化し、テクノロジーを民主化します」

「産業界や専門家たちにいかにして責任を持たせられるか。いかにして透明にできるか。いかにして市民参加を組織できるか。そこがポイントです。産業界や技術的な専門家は、今まで、何がリスクで何がリスクでないのか、決定する権限を独占してきた。彼らはふつうの市民がそこに関与するのを望まなかった。

−−日本でも「原子力村」と呼ばれる閉鎖的なサークルへの批判が起きています。

「ドイツでも80年代まではそうでした。しかし、その後変わっていった。こういうときは、世界に自らを開き、もっと協力しあわなければなりません。グローバル時代には、どんな国の国民も、これらの問題を自分たちでは解決できません」

ウルリッヒ・ベックさんへのインタビュー全文は以上となります。まこと、ベックさんの言うとおりだと思いますよ。「問題が起きて、その負担を国や市民に回すのなら、それは資本主義ではありません。(中略)これはまるで社会主義、国家社会主義(ナチス)です」という言葉は、原発事故後、僕も常々思っていました。殺し方は違いますが(ナチスは強制収容所と戦争、東京電力は放射能)、歴史的に例を見ない、大量殺戮を行い、しかも、異常としか言いようがない完全な無責任さ、自ら引き起こした罪責に対する意識や行動をまったく持たない大量虐殺者という点で、東京電力とナチスは本質的に共通していると感じますね…。

「震災列島」を書いた石黒曜さんが、2008年10月のインタビューで資料を挙げて、地震国である日本の原発は地震に耐えられない、耐震基準の甘いものであり、ドイツの基準では、日本に原発を建てていい場所は存在しないと述べています。福島第一原発事故について知れば知るほど、この事故は予見できなかった災害ではなく、東京電力、すなわち、東京電力の社員・幹部たちの行動によって、そしてそれらと密接に結びついた政財官学(政治家・産業人・官僚・御用学者)の人々の行動によって、それらの人々の行動が引き起こした明らかなる人災であることがはっきりしてきます。そして彼らは恐るべき大量殺人者であるのに、その罪責を微塵たりとも感じていないところ、まさにナチスの高官たちを彷彿とさせます。

本の窓2008年9・10月号

石黒曜「震災列島になぜ原発と高層ビルがあるのか」

この小説(震災列島)を書くにいたった動機は、現在の日本政府への絶望的な怒りといえます。この国の政治家や官僚たちがどれくらい自分たちの「足元」のことを知っているのか。きちんと地学的な知識の裏づけや安全性を考慮して原子力発電所を各地に建てたのか。(中略)世界の先進国の政治で自然科学をおろそかにしているのは、(震源地に耐震基準の甘い原発を建てるという、日本以外の国では考えられないことを行っている)日本だけじゃないですか。国民が安心して生活を送るためにもっとも大切なのは地面、国土なのですから。

わかりやすい数字でいいますと1994年から2004年までに世界で起こったマグニチュード6以上の地震の21%がなんと日本で起こっています。世界の陸地面積のうち、0.25%というのが日本の割合ですが、そんな小さなところに地球の大きな地震の四分の一近くが発生している。これは戦慄すべき数字です。

地震は、いわゆる断層が境となる両側のプレートが急激にずれることにより生じます。地震がよく起こる帯状の地帯を地震帯といいますが、日本は環太平洋地震帯の上に位置していて、加えて火山帯でもあります。

日本列島には太平洋側から太平洋プレートやフィリピン海プレートといったプレートが押し寄せ、日本海側からはユーラシアプレートが押し寄せているため、日本列島には左右三方面から強い力が働いています。(中略)

小説(震災列島)では、東海地震領域のど真ん中にある浜岡原発が補助発電機の被災が原因で水蒸気爆発を起こし、周辺地域200万人が被爆するという最悪のシミュレーションもしていました。ところが昨年7月、新潟県中越沖地震が発生し、柏崎刈羽原発の補助発電機が炎上。これにはゾッとしました。もう少しで「震災列島」の原発事故が現実になるところだったのです。「原発は地震に強い」という建前は崩れたわけです。

エコ先進国のドイツの基準で見ると、現状の日本で原発を建てていい場所など一つもないそうです。これだけの地震国である日本には、確かに安全な場所などないのです。しかも、一度事故が起きてしまったらとりかえしがつかない。人、環境への汚染は長い年月続きます。(中略)

原発の耐震基準は、非常に甘いものでした。(耐震基準の甘い原発がさらに)老朽化は進むのに、日本は地学的動乱期を迎え、地震は増える。世界有数の地震国でありながら、原子力発電を選択したのは日本政府の大きな間違いだと思っています。

収容所にはおびただしいユダヤ人の死体がのこされ……
ドイツ中に果てしない廃墟がつづいていた……

これが ヒットラーがドイツ国民に贈った「千年帝国」だったのである……
(水木しげる「劇画ヒットラー)

病院には被爆由来の疾病を持つおびただしい死病者がのこされ……
日本中に果てしない汚染がつづいていた……

これが、東京電力が日本国民に贈った「電力事業」だったのである……


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世界リスク社会論 テロ、戦争、自然破壊 (ちくま学芸文庫)
危険社会―新しい近代への道 (叢書・ウニベルシタス)
グローバル化の社会学―グローバリズムの誤謬 グローバル化への応答
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再帰的近代化―近現代における政治、伝統、美的原理
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