2011年01月23日 20:50

魔法少女まどか☆マギカ、キュゥべえと契約したらどうなるの?「悪魔との契約」小説のいろいろ。悲劇と繋がり。

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九時から五時までの男 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

amazonレビューに、まどか☆マギカのトラウマ炸裂話が…。なんということだ…。前回のエントリ(http://nekodayo.livedoor.biz/archives/1430002.html)、このような悲劇が起こらないように「まどか☆マギカは大人向けの優れたアニメです。ウロブチワールドを小さい子に奨めてはだめだあ」と前回書いたのに…(^^;

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可愛いキャラデザだったので姪っ子(小一)に勧めてえらい目に遭いました・・・
2011/1/23 By 読者1号
可愛いキャラデザだったので正月に姪っ子に勧めました。
本日、録画した番組をみた姪っ子が怯えて塞ぎ込んでいるという 怒りの電話が姉と母からありました。
もう本当にマジで勘弁してください・・・。 おかげさんでぼくは実家に出入り禁止ですよ・・・。
もう姪っ子も口聞いてくれないんだろうな・・・。 皆さんはくれぐれもキャラデザだけで幼女に勧めたりすることのないように。

なんというか、「まどか☆マギカ」の場合は、今までの魔法少女物というよりは、作者さんの作風的に、「皮肉でシニカルな味わいの大人向けアニメ、悪魔キュゥべえと少女の契約物」として心構えして見た方がいいですね…。「悪魔との契約」作品というのは、物語においてはかなりメジャーなジャンルなので、今回は、「悪魔との契約」小説を、パターン紹介と共にいくつかご紹介致しますね。

「悪魔との契約」パターンその1
『相手が悪魔だと分からず、良かれと思って契約してしまい、破滅する』
「魔法少女まどか☆マギカ」はまずこれでしょうね。このネタの小説では、皮肉な味わいの短編に定評のあるスタンリイ・エリンの短編「七つの大徳」(「九時から五時までの男」収録)が非常に優れています。もう本当に最高に上手い。読み終わったあと、思わず膝を打ちましたね。風刺が最高に効いています。これを読むと、もしドラのみなみちゃんは知らない内に悪魔と契約しちゃってるとしか思えなくなります(参考http://nekodayo.livedoor.biz/archives/1422421.html)。他には、フレドリック・ブラウンの「死の10パーセント」(「新パパイラスの舟と21の短編」収録)とかもありますが、とかく、「七つの大徳」がずば抜けた出来なので、これに勝るものはないかと思いますね。ぜひご一読お勧めいたします。他の短編も最高です。星新一さんの短編が好きなお方とか、きっと楽しめるかと。お勧めできる短編小説集ですね。

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“新パパイラスの舟”と21の短篇

「悪魔との契約」パターンその2
『幸せになるために願った願いごとによって、不幸が訪れてきて破滅する』
これはもっともオーソドクスな王道パターンです。古典中の古典、ジェイコブズの「猿の手」はこれですね。パターン的にはオーソドクスすぎて、特に語ることがない…(^^;

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「悪魔との契約」パターンその3
『人間側の願いごと・契約事項に対する解釈と、悪魔側の願いごと・契約事項に対する解釈が違う』
これは人間側が勝利することもできるパターンです。藤子・F・不二雄さんの「メフィスト惨歌」がそうですね。ただ、メフィスト惨歌の場合は、全人類が滅亡する遠い未来を考えると、悪魔が勝ったとも解釈もできます。このネタの普通にストレートなパターンはヘンリー・スレッサーが「悪魔との契約」ネタの名短編「三つの願いごと」(「夫と妻に捧げる犯罪」収録)で上手に描いていますね。短いので引用してご紹介致します。

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若者は階段を登り、二階の部屋のカーペットにうずくまっている『彼』をみた。悲鳴は上げなかったが、顔色はかなり青ざめた。

「願いごとをいいなさい」『彼』は命令した。「さっさとしてくれると有難いのだが」

「本当に何か願ってもいいと言うんですか?どんなことでも?」

「利口な若者だ」尻尾を軽くしゅっと振りながら『彼』はいった。「私は願いごとをかなえるためにここに来た。そのために送られて来たのだ」

「どこから来たんです?」

「願いごとをいうのだ、どら息子めが!」開いたあごから、ギザギザの歯をのぞかせて『彼』はいった。「条件は簡単だ。一つだけ願いごとが許される。それ以上はだめだ。一度口に出せば取り消すことは出来ない。さあ、いうんだ!」

若者の口からピンク色の舌が突き出され、血の気のない唇を舐めた。両目は卵のように丸く見開かれ、両手が震え始めた。「女だ」彼はささやいた。

「なに?大声でいえ」

「女!」若者は叫んだ。「美しい女だ!この世で一番の!」

「ああ」と『彼』はいった。

「俺に恋をしている女」若者はいった。「俺に夢中の女、欲しいのはそれだ!」

「恥知らずめ!」『彼』はどなった。「スケベめ!お前に惚れこんでいる哀れな女をどうしようというんだ?奪い取るのか?嘆き悲しませるのか?それとも、結婚して永久に愛し合ってゆくつもりなのか?」

「そうする!約束する!」

尻尾がカーペットをシュッとはたいた。「よろしい」と『彼』は言った。「今の約束を守るがいい。女が現れたら、2人で一緒に暮らすのだぞ。嫌だというなら死ぬほかない」

「誓う、誓うよ!」

『彼』は口からぱっと火炎を吐いた。火炎の中からその女性が現れた。生まれたままの姿で。鱗の生えた皮膚の美しさ、みるからに形のよい鼻先、手足と尻尾のかわいらしい曲線に、『彼』は息を呑んだ。こんな美女を創り出せる自分の能力に感服しきっていた。なぜ、この愚か者は悲鳴を上げているのだろう?

「静かに、お若いの!」と『彼』は命じた。「それが花嫁を迎えるやり方か!」

「いやだ!」妻となる女性の腕に抱かれながら彼は叫んだ。「化け物だ!怪物だ!」

「たわけめが!これは私が見た中で一番美しい女だ。さあ、お行き、子供達よ」ビーズ玉のような一つ目に感傷的な涙をにじませて『彼』はいった。「行って、幸せな家庭をつくるがいい」
(ヘンリー・スレッサー「三つの願いごと」)

流石はスレッサーさん…。こういう話を書かせたら天下一品です…。ヘンリー・スレッサーは上記のような切れ味鋭い短編・掌編の名手で、星新一さんがお気に入りの作家さんとして影響を受けた作家さんですね。実際にスレッサーと星さんの作品はシニカルで覚めていて切れ味鋭く皮肉な落ちをつける作風、とても似ています。この「三つの願いごと」は、どの契約も、悪魔側は『悪魔として真面目に』願いをかなえてやってて、悪魔側に悪意がない、かなり誠実な悪魔の話にも関わらず契約者達がみんなあっという間に破滅してゆくのがますます怖い短編です…。

ここで少し余談を。悪魔との契約ではなく、天使の話で、天使が人間の願いを叶えまくる「天使の契約」な星新一さんのショートショートがあるのでご紹介致します。神様が、「人間達は苦しみのあまり戦争などを引き起こし自滅へ向かっている。天使はサービスが足らん」と怒り、天使が全力で人間にサービスするようになって地上がそのまま楽園になる話です。天使が人間のために、地上を仮想現実システムを使ったそれぞれの望みの叶う楽園にするというアイデアが時代を先駆けすぎていて凄すぎる…。現在の「二次元萌え」「仮想現実」とかの概念がまだ存在しない何十年も前に書かれたんですよ…。映画「マトリックス」の先駆けです。星さんは本当に凄い…。

人間達の一生は軌道に乗った。子供の頃はロボットが世話してくれる。ある程度成長するとメガネ式テレビ(仮想現実システム)をつけて勉強し、テレビの物語を楽しむ学力を身につける。年頃になって結婚したくなれば、サービス社に連絡すると一番性にあったものを探してくれる。離婚することはない。お互い一日中メガネをつけていれば相手がどんなでも気になることはないのだから。むしろ、ロマンチックな番組をかけて手を握り合っていれば昔より遥かに楽しい生活だった。そして、疲れてくると、ハーブ式香水(心和ませすぐに眠りに入れる噴霧薬)とユメミキ(望みどおりの楽しい夢がみられる機械)を使って眠りに入るのだった。(中略)

神様は長い昼寝から目覚めた。「そうそう、天使達にサービスをよくするようにいっておいたがうまくいってるかな」(中略)神様は地上を見渡し、あっと叫んだ。地上は完全な魂製造機となりはてていた。人間の一生には苦しみも悩みもなく、栽培される作物のように、魂を天使に提供するだけの目的で過ごされていた。

「能率がいいでしょう」天使達は神様に褒めてもらいたくて言い続けていた。神様はうなずくわけにもいかなかった。だが天使達を責めることもできなかった。自分の命令の至らなさと、眠りすぎたことを後悔し、「これを改めるのはちょっと難しいな」とつぶやいた。
(星新一「天国からの道」「気まぐれスターダスト」より)

気まぐれスターダスト (ふしぎ文学館)

これは、天使のおかげで地上がそのまま天国と地続きの楽園になるので、人間にとってみればハッピーエンドですね。天使の楽園楽しそうだし、世の中に苦しみや悩みはない方が絶対いいです…。閑話休題。

「悪魔との契約」パターンその4
『悪魔はきちんと願いをかなえるが、人間側がそれを台無しにして破滅する』
これは「悪魔との契約」ネタというよりは、「自分に備わった超常的な能力の使い方に失敗して破滅する」というパターンで小説として書かれることが多いですね。フレドリック・ブラウン「こだまガ丘」(「未来世界から来た男」収録)、筒井康隆「お助け」(「くさり」収録)などがそうです。悪魔との契約として絡めた作品としては、先のスレッサーの「三つの願いごと」がそうですね。再び引用してご紹介致します。

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くさり―ホラー短篇集 (角川文庫)

しわがれた喉から言葉が轟いた。「不死だ!」

「ああ」と『彼』は言った。

「聞こえたのかね?わしは永遠に生きたい。かなえてもらえるか?できるかね?」

「全てが可能なのだ。さあ、行きなさい。望みはかなった」

「なんだって?」

「この仕事は疲れる」『彼』はぶつぶつ不平をいった。「お前の望みはかなった。さあ、出てゆけ」

太った男は自分の身体をあちこち触った。

「わしは変わっておらん。いつもと同じじゃないか。このペテン師が!」

「行け!」『彼』の声が雷のように轟いた。

「あんたがわしを不死身にしたとどうしてわかるんだね?どうやって証明できる?」

『彼』はため息をつき、けづめの生えた手にぱっと炎を吐き出すと、小さなビンが現れた。「飲め!」栓を抜きながら命令する。太った男がそれを飲むと、茶色の液体がしわだらけの唇に染みついた。

「ぺっ!ひどい味だ!これが不死の薬なのか?」

「いや違う。お前の願いがかなえられたことを証明しただけだ。そのビンには百人を殺せるくらい強力な毒薬が入っていた。それなのに、お前はまだ生きている」

「だが、わし自身がどうやって確かめられる?なんだって通用するかもしれんじゃないか。あれが毒薬だったとどうしてわかる?」

「馬鹿者が!」『彼』はどなり、今度は拳銃を吐き出した。その男の広い胸にむけて弾倉が空になるまで銃弾を撃ち続けた。

「どうだ、疑い深いやつめ」『彼』はいった。「これで満足か?」

「空砲だろ」訪問者は軽蔑した調子でいった。「わしがその手を知らんとでも思うのか?わしのような古ギツネを騙せるとでも考えたのか?」

「たわけが!」『彼』は叫び、半月刀をぱっと吐き出した。太い刀身がきらりと光る。けづめの生えた手で刀をつかむと、力いっぱい振り下ろす。老人の頭が体から離れて転がった。

「どうだ!」カーペットの上でこちらを見つめている目にむかって憎憎しげに声をかける。「これで信じたか、馬鹿者が!」

「わかったよ、よくわかった」男の声がしぶしぶ答えた。「あんたは正直者だ。確かめたかっただけなんだ。さあ、後はわしを元に戻してくれたら……」

「残念だが」『彼』はぴしりと言った。「願いごとは一つきりだ」

「だが、わしをこのままにしておけんだろう」

「行け!」彼はけづめを突き出した。「取引は終わった、行くんだ!」怒って鼻の穴から煙を噴き出しながら、彼は怒鳴った。

太った男の体がよろめきながら戸口に向かった。

「お前のそのいまいましい頭を忘れずにな!」『彼』は叫んだ。
(ヘンリー・スレッサー「三つの願いごと」)

これは、完全に人間側(契約者側)の自業自得な話ですね。願いを叶えた後もアフターサービスのいい悪魔さんだったのですねとしか言いようがない…。こういうの読むと、「悪魔との契約」の悪魔は一種のビジネスマンなのでクレーム処理も大変なんだなあと改めて思います。

「悪魔との契約」パターンその5
『悪魔はきちんと願いをかなえるが、その願いは意味がなかった』
僕が解説するより、原文を読んでもらった方がきっと早いですね。上記と同じく、ヘンリー・スレッサー「三つの願いごと」より引用致します。

「答えはただ一つしかないと思いますがね」

「というと?」

「カネですよ、もちろん。世界を動かすのはこれしかないじゃないですか」

「そうか。で、どのくらい欲しい?」

ベンソンは笑い出した。「そう、手に入るだけ全部、かな。欲張りだと思われたくないが、もらえるかぎりもらいたいですね。もう働きたくないですからね。何もしたくない。40で動脈硬化症なんてまっぴらですよ。私はまだやっと38なんですから」

「くだらん!」『彼』は叫んだ。「願いごとをはやくいったらどうだ」

「いいですとも」ベンソンは言った。「今、いいますよ」彼は帽子をぴしゃっと頭に乗せた。「欲張りたくはないですからね。残りの人生、毎日1000ドルずつもらえればそれでいいんです。それだけあればなんとかやれる。新しいことが始められる。これでいいですか?かなえられますか?」

『彼』はあくびをしてから、炎を吐き出した。マニラ紙の封筒がカーペットの真ん中に現れた。「ほら」『彼』はいった。「すまんが、年金のようにはしてやれない。総額まとめて持っていくがいい」

「かまいませんよ」ベンソンはほがらかにいった。封筒を拾い上げ、厚さを確かめて、ちょっとがっかりした様子で封を切った。「おや」と、彼はいった。「間違ってますよ。ここには2000ドルしか入っていない。1000ドル札が2枚きりだ」

『彼』は目を閉じていた。

「ねえ、私のいったことちゃんと聞いてなかったんでしょう。残りの一生、毎日1000ドルずつほしいって願ったんですよ。むろん、あなたのやることに文句をいうわけではないんですが…」

『彼』はうとうとしていた。ベンソンは肩をすくめ、カネをポケットにしまって出て行った。
(ヘンリー・スレッサー「三つの願いごと」)

あらら…って感じですね…。ベンソンさんは、お金よりも、寿命を延ばしてくれとお願いするべきだったのに…。

「悪魔との契約」パターンその6
『人間側が悪魔を出し抜いて完全勝利する』
意外とあんまりないんですよね。先に挙げた「メフィスト惨歌」とか、レ・ファニュの「ドミニック卿の契約」とかがこれですね。このパターンに見せかけて、実は…という次のパターンの方が多い感じです。知恵比べ小説である「悪魔との契約」小説書く作家さんは、トリッキーなタイプの作家さんが多いですからね…。

「悪魔との契約パターンその7
『人間側が悪魔を出し抜いて完全勝利したと見せかけて実は…』
これに関しては、日本の珠玉の短編作家、芥川龍之介の「煙草と悪魔」が素晴らしい出来です。青空文庫で、インターネット上で全文読めますので、まだ読んでいらっしゃらないお方々はぜひご一読を。

芥川龍之介「煙草と悪魔」
http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/163_15142.html悪魔は、ころんでも、ただは起きない。誘惑に勝つたと思ふ時にも、人間は存外、負けてゐる事がありはしないだらうか。

パターンとしてはこれくらいかな…。僕のお勧めは最初に取り上げた、「七つの大徳」ですね。これは本当に上手い。収録されている他の短編も物凄く上手くて、こういう洒脱で上手い短編集はとても好きですね。

基本的に、悪魔と契約するとだいたいろくなことにならない話が多いので、これまでの魔法少女物のように、「魔と契約して力を手に入れてしかも契約者が幸せになる」という話の方が、「悪魔との契約」というジャンルから見ると例外的で、「魔法少女まどか☆マギカ」のような、「悪魔と契約して破滅する」という作品の方がこのジャンルの王道であると言えるのではないかなと思います。

「悪魔との契約」小説はシニカルで皮肉さに溢れた短編小説が多く、それらは、登場人物に感情移入するのではなく、物語のトリッキーなアイデア自体を楽しむ、ワン・アイデア・ストーリーであるのですが、まどか☆マギカの場合は、それとは違いますね。まどか☆マギカは登場人物達がみんないい子で見ていて大きく感情移入してゆく上、彼女達がその善良さゆえに、悪魔キュゥべえの企みに全然気がつかぬまま良かれと思って契約しちゃいそうなので、第3話の巴マミさんの死のように、善き人、大切な人が失われる悲しみ、悲劇性がより際立つ展開になりそうですね…。

(悲劇は)不幸から幸福へと転じるのではなく、反対に幸福から不幸へと転じるのでなければならない。そしてその原因は、(登場人物たちの)邪悪さにあるのではなく、大きなあやまち(間違い)にあるのでなければならない。(中略)(悲劇の登場人物は)より劣った(悪しき)人ではなく、むしろ、よりすぐれた(善き)人でなければならない。(中略)(登場人物への)憐れみ[エレオス]と(その悲劇的運命に対する)恐れ[ポボス]を通じて、諸感情の浄化[カタルシス]を達成する。
(アリストテレス「詩学」)

詩学 (岩波文庫)

アリストテレスは悲劇において、悲劇の登場人物に対するエレオス(憐れみ)と、その運命に対するポボス(恐れ)が、観客の諸感情を浄化(カタルシス)すると書いています。上手く説明できないんですけど、僕は凄くよく分かるなあと感じますね…。我々が、善き人々に降り掛かるどうしようもなく不条理な災難に、憐れみを覚え感情を動かされること、これは、人間にとって、物凄く大切なことだと思うんですね…。人間同士の関係・共同体もまた、他者への憐れみ(慈しみ)による優しさと、我々の運命に対する恐れによって、それぞれ互いに繋がりあっているものですから…。まどか☆マギカ、きっと、視聴者にカタルシス(浄化)を与える悲劇的展開が続くでしょう。今後も全く目が離せない、優れた作品です。

ジョージ秋山「アシュラ」が幻冬舎文庫に収録された。1990年代に、ぱる出版から出たものが最後だったはずだから、久々の復刊である。表面的な過激さの奥にある秋山の人間観を今こそ読みとっておきたい。表面的な過激さというのは、雑誌掲載時に喧々轟々たる議論を巻き起こし、神奈川県などの児童福祉審議会が有害図書に指定した描写のことである。人肉食のシーンが子供に悪影響を与えるというのだ。(中略)

むろん、現代のマンガ表現の水準からみれば、問題にもならない描写である。「銭ゲバ」も、極貧の環境に育った主人公の悲劇を描いたものだし、「アシュラ」の人肉食も中世の苛烈な下層民衆の生活を描いたものにすぎない。ジョージ秋山は、キレイゴトの少年マンガの枠を破りたかっただけなのである。

しかし、「アシュラ」初出連載時にこれを読んだ大学生の私は、もっと深いものを見て強く惹かれた。それは蔑みや憐れみの積極的価値である。これは、後の私の思想形成にも何がしらの影響を与えた。

先にも言ったように、「銭ゲバ」は社会派マンガとも読めるし、「アシュラ」は歴史マンガとも読める。社会悪や歴史の軋みが、主人公をそうさせたのである。そうであれば、作者の眼差しや、作者に導かれた読者の眼差しは、悲劇の主人公を「理解」するものでなくてはならない。しかし、作者は主人公を「蔑み」と「憐み」の眼差しで見ている。

「アシュラ」は、戦乱と飢餓の続く古代末から中世初頭が舞台である。アシュラは、散所太夫が捨てた女が産んだ子供である。女は、自分一人さえ食ってゆくことができず、野に放置されている人間の死体に手を出す。それも入手できない時、ついに我が子アシュラを焚き火の中に投じる。

アシュラは、しかし、偶然の雷雨で助かる。だが、彼は父にも母にも呪われ、誰一人自らを受け入れてくれないまま、中世の下層社会を文字通り阿修羅のように生きてゆく。

阿修羅とは、仏教で言う、人間と畜生(禽獣)の中間に位置する「憐れむべき」存在のことである。しかし、そうなったのはアシュラの責任ではない。社会の責任である。そういう不幸な人達を憐れんだり、ましてや蔑んだりしてはならない。我々の良識はそう教える。三十数年前大学生だった私も、この良識を大筋では信じていたのだろう。だからこそ、逆にアシュラに惹かれたのだ。アシュラを見る僧は言う、「ふびんなやつ」と。琵琶法師も言う、「あわれじゃわいな」と。この僧や琵琶法師の姿は感動的であれ、非人間的ではない。蔑みや憐みがしばしば感動さえ呼び起こすことを、私は「アシュラ」によって気づかされた。
(呉智英「マンガ狂につける薬二天一流編」)

まどか☆マギカを見ていて、巴マミの酷く無残な死に悲しみ、憐み、痛みを覚えた視聴者さんは、僕を含め、大勢いると思います。アリストテレスが悲劇を語るときに使っている[エレオス]という言葉は、「憐み」と訳されますが、もう一つ、「痛ましさ、他者の痛みを感じる」という意味もあるんですね…。こういった気持ちを、大切にできる世の中に、少しずつでも進んでゆくといいですね…。

参考作品(amazon)
マンガ狂につける薬 二天一流篇
九時から五時までの男 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

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