2010年12月26日 02:29
中村光「聖☆おにいさん 第6巻」、クリスマスに読了。イエスの性格が変わってきているのが面白いですね。
聖☆おにいさん(6) (モーニングKC)
聖☆おにいさん作品一覧
一昨日、昨日、クリスマスイブ・クリスマスでしたが、僕の生活においては、いつもと違うことは何一つ起きないまま、いつもの日々と同じく胸に不安な暗雲垂れ込めたまま終わってしまいました…。なんだか凹みます…。少しでも、聖なる気分があるといいなあと思って、クリスマスの日は仏陀&イエス・キリストの生活を描いた中村光「聖☆おにいさん」の最新刊第6巻を読みました。いつもと変わらず安定した出来の面白いキリスト教&仏教パロディ漫画です。以前の巻に比べると、ちょっとですが、絵柄が荒れてきている感じがするのが気に掛かりますが、これぐらいなら、まあいいかなと…。
今回面白いなあと思ったのは、「聖☆おにいさん」、話が進むに連れ、イエス・キリストの性格がだいぶ変わってきていることですね。仏陀は1巻から6巻まで、ずっとマイペースで人の良い、変わらぬ人物像ですが、イエス・キリストの性格は1巻に比べると変わってきているのが面白いなと。最初の頃のイエスは仏陀と同じく、人の良さが前面に押し出された性格でしたが、今回読んだ第6巻になるとかなり性格が変わっていて、普段から常にアグレッシブで、プッツンすると攻撃的になってしまう性格になっていますね。
たぶんこれは、作者の人がキリスト教の歴史とイエス・キリストの人物像を勉強して、史的イエスの資料を読み込んだ結果なのだろうなあと思いましたね…。実際のイエス・キリストは、現在のキリスト教史の研究では、キリスト教会が長年掛けて作り上げた「優しげな博愛の人のイメージ」というものとはだいぶ違い、その実は、かなりアグレッシブで先鋭的なカリスマ宗教指導者、当時の体制(ローマ及び正統ユダヤ教)と対立する革命的宗教組織の強い指導者だったと考えられていますから。死海文書やナグ・ハマディ文書などの、キリスト教会の焚書を免れた古代の文献が20世紀に発見されたことで、イエス・キリストの研究は大きく進展し、そこから導き出されるものは、どうやらイエス・キリストは、ローマ及び当時の正統ユダヤ教と対立する教義を持つ、かなり先鋭的・革命的なユダヤ教の宗教組織(エッセネ派・クムラン宗団)において、重要なメンバー(イエスがダヴィデ王の血筋である場合、その血筋が尊重された可能性が考えられる)であり、そこからキリスト教に繋がっているということですね。
史的イエスには色んな説があるんですが、共通していることとしては、イエス・キリストは単に柔和な博愛を問いだだけではない。彼は当時のローマ及び正統ユダヤ教の体制に対して反逆的な宗教思想を主張し、なおかつ支持を受けるカリスマ性を持った、初期キリスト教の重要な指導者の一人であっただろうということですね。史的イエスの研究では、イエスはキリスト教会の作り上げたイメージである「博愛の人」というよりは、「アグレッシブな革命家」として考えられていることが多いです。
聖☆おにいさんの作者である中村光さんはこういった資料を読んで、作品に出てくるイエス・キリスト像を、キリスト教会のイメージのイエス(キリスト教徒の人々がイメージとして抱く博愛主義者としてのイエス)から、史的イエス(実際のイエス、体制に反逆する革命家的な宗教指導者としてのイエス)の方へだんだん転換してきているのが読んでいると分かって、面白いですね。今回の第6巻では、ユダの福音書の話や、ローマ順応派であったユダヤ地区の統治者ヘロデ王に対して怒っているシーンとかあって、体制に反逆する革命家イエスという側面がこれまでの巻に比べ、より強く出ていて面白いなと思いました。もう一人の主役である仏陀の方は、仏陀は体制と正面からぶつかるようなことは避け、心の平安を説いた宗教指導者なので、1巻からずっと平和な性格は変わりませんが、イエス・キリストは最初の頃のお人よしだったイエスに比べると、性格がずいぶん変わったなあと…。第6巻のイエスは、このままクリスチャン・ロックのスターになれそうです。
パロディであっても、いい加減に描くのではなく、きちんとキリスト教資料・仏教資料を読み込んで、今回のように史的イエスを描こうとするのは良い取り組みだと思いますね。優れたパロディは、パロディ元となるオリジナルへの敬意とオリジナルへの深い理解を必須としますが、「聖☆おにいさん」はそれらの意欲が感じとれる良い漫画ですね。パロディは、読み手も、パロディ元への知識が深ければ深いほど楽しめますから、聖☆おにいさんを楽しむために、宗教を学ぶ(信仰するのではなく、知識研究として学ぶ)というのも、良いことだと僕は思いますね…。
参考作品(amazon)
聖☆おにいさん(6) (モーニングKC)
聖☆おにいさん作品一覧
仏教 (岩波新書)
お経の話 (岩波新書)
ブッダ全12巻漫画文庫
基督教の起源 他1篇 (岩波文庫 青 145-1)
小型聖書 - 新共同訳
マンガ狂につける薬 二天一流篇
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聖☆おにいさん作品一覧
一昨日、昨日、クリスマスイブ・クリスマスでしたが、僕の生活においては、いつもと違うことは何一つ起きないまま、いつもの日々と同じく胸に不安な暗雲垂れ込めたまま終わってしまいました…。なんだか凹みます…。少しでも、聖なる気分があるといいなあと思って、クリスマスの日は仏陀&イエス・キリストの生活を描いた中村光「聖☆おにいさん」の最新刊第6巻を読みました。いつもと変わらず安定した出来の面白いキリスト教&仏教パロディ漫画です。以前の巻に比べると、ちょっとですが、絵柄が荒れてきている感じがするのが気に掛かりますが、これぐらいなら、まあいいかなと…。
今回面白いなあと思ったのは、「聖☆おにいさん」、話が進むに連れ、イエス・キリストの性格がだいぶ変わってきていることですね。仏陀は1巻から6巻まで、ずっとマイペースで人の良い、変わらぬ人物像ですが、イエス・キリストの性格は1巻に比べると変わってきているのが面白いなと。最初の頃のイエスは仏陀と同じく、人の良さが前面に押し出された性格でしたが、今回読んだ第6巻になるとかなり性格が変わっていて、普段から常にアグレッシブで、プッツンすると攻撃的になってしまう性格になっていますね。
たぶんこれは、作者の人がキリスト教の歴史とイエス・キリストの人物像を勉強して、史的イエスの資料を読み込んだ結果なのだろうなあと思いましたね…。実際のイエス・キリストは、現在のキリスト教史の研究では、キリスト教会が長年掛けて作り上げた「優しげな博愛の人のイメージ」というものとはだいぶ違い、その実は、かなりアグレッシブで先鋭的なカリスマ宗教指導者、当時の体制(ローマ及び正統ユダヤ教)と対立する革命的宗教組織の強い指導者だったと考えられていますから。死海文書やナグ・ハマディ文書などの、キリスト教会の焚書を免れた古代の文献が20世紀に発見されたことで、イエス・キリストの研究は大きく進展し、そこから導き出されるものは、どうやらイエス・キリストは、ローマ及び当時の正統ユダヤ教と対立する教義を持つ、かなり先鋭的・革命的なユダヤ教の宗教組織(エッセネ派・クムラン宗団)において、重要なメンバー(イエスがダヴィデ王の血筋である場合、その血筋が尊重された可能性が考えられる)であり、そこからキリスト教に繋がっているということですね。
ウィキペディア「史的イエス」
史的イエスとは、キリスト教の開祖とされるナザレのイエスについて、キリスト教信仰の観点を排除し、史料批判など歴史学的な手法を用いて探究される歴史上の人物像のことである。
史的イエスには色んな説があるんですが、共通していることとしては、イエス・キリストは単に柔和な博愛を問いだだけではない。彼は当時のローマ及び正統ユダヤ教の体制に対して反逆的な宗教思想を主張し、なおかつ支持を受けるカリスマ性を持った、初期キリスト教の重要な指導者の一人であっただろうということですね。史的イエスの研究では、イエスはキリスト教会の作り上げたイメージである「博愛の人」というよりは、「アグレッシブな革命家」として考えられていることが多いです。
聖☆おにいさんの作者である中村光さんはこういった資料を読んで、作品に出てくるイエス・キリスト像を、キリスト教会のイメージのイエス(キリスト教徒の人々がイメージとして抱く博愛主義者としてのイエス)から、史的イエス(実際のイエス、体制に反逆する革命家的な宗教指導者としてのイエス)の方へだんだん転換してきているのが読んでいると分かって、面白いですね。今回の第6巻では、ユダの福音書の話や、ローマ順応派であったユダヤ地区の統治者ヘロデ王に対して怒っているシーンとかあって、体制に反逆する革命家イエスという側面がこれまでの巻に比べ、より強く出ていて面白いなと思いました。もう一人の主役である仏陀の方は、仏陀は体制と正面からぶつかるようなことは避け、心の平安を説いた宗教指導者なので、1巻からずっと平和な性格は変わりませんが、イエス・キリストは最初の頃のお人よしだったイエスに比べると、性格がずいぶん変わったなあと…。第6巻のイエスは、このままクリスチャン・ロックのスターになれそうです。
パロディであっても、いい加減に描くのではなく、きちんとキリスト教資料・仏教資料を読み込んで、今回のように史的イエスを描こうとするのは良い取り組みだと思いますね。優れたパロディは、パロディ元となるオリジナルへの敬意とオリジナルへの深い理解を必須としますが、「聖☆おにいさん」はそれらの意欲が感じとれる良い漫画ですね。パロディは、読み手も、パロディ元への知識が深ければ深いほど楽しめますから、聖☆おにいさんを楽しむために、宗教を学ぶ(信仰するのではなく、知識研究として学ぶ)というのも、良いことだと僕は思いますね…。
「聖☆おにいさん」宗教と日本風土
(聖☆おにいさんは)日本漫画ならではの宗教パロディのギャグ漫画で、単行本第一巻の帯にも「こんな漫画見たことない!!」とある。なにしろ、イエスと仏陀が長期休暇を取って世俗界の日本に降りてきて、安アパートをルームシェアしているという設定なのだ。(中略)
日本漫画ならではといったのは、外国では宗教パロディは要注意だからである。(中略)(イエス・キリストをパロディ化したら)アメリカ南部の原理主義者の多い地方などでは大騒ぎになる。(中略)仏教でも小乗仏教圏では、仏陀のパロディはまずいだろう。タイでは日本漫画が大人気だが、「聖☆おにいさん」だけは出版されまい。
日本の宗教的寛容さは、しばしば無節操として否定的に語られるが、こうしてみるとあながち悪いばかりでもない。信教の自由は、権利・義務という無機的な概念ではなく、むしろ風土や民族性に関わっているのかもしれない。
「聖☆おにいさん」の面白さは、設定の妙と共に(宗教の)小ネタの連発にある。キリスト教や仏教の教義や習俗があちこちにひねってはめ込まれている。商店街の福引を引く仏陀が、息をつめて「南無三!!」と口走るところなど、小ネタとして秀逸である。(中略)
パロディには、共有される教養が必要である。何をどうひねっているのかわからなければ、笑おうにも笑えない。「聖☆おにいさん」は、かなり高級なパロディである。仏教とキリスト教の知識が、初歩的なものにしろ、ある程度ないと笑えないからだ。これを機会に、仏教とキリスト教の概略を知っておこう。西洋的思考・東洋的思考の基礎、東西両文明の骨格を知ることになる。(中略)
まずは網羅的・概括的な本が良い。1956年の第一版以来ロングセラーになっている渡辺照宏「仏教」を薦めておこう。
仏教 (岩波新書)
「仏教」は、仏陀の生涯に紙幅の半分ほどを割き、きわめて人間的な仏教像を平明に呈示している。特定宗派の仏教解釈に偏ることもなく、御利益を強調することもない。死を前にした80歳の仏陀は、特別に手厚い看護も受けず、下痢と渇きの中で衰弱していく。そこに何の奇蹟の起きる訳でもない。常人と同じ平凡で静かな死の情景である。ただ、そんな普通の肉体をした仏陀が最後まで法(ダルマ)を説き、精神の自由を保ちえたことが奇蹟なのだ。
手塚治虫「ブッダ」は、創価学会系の「希望の友」に連載されながら、なんら創価学会の宣伝めいたところのない仏伝の名作である。執筆に当たって手塚が主要参考文献としたのが渡辺照宏の「仏教」であった。
ブッダ全12巻漫画文庫
仏教の教理史の手軽な入門書としては、同じ渡辺照宏が「仏教」の続編のように書いた「お経の話」が、やはり平明で水準が高い。(中略)
お経の話 (岩波新書)
(キリスト教の入門書は)これもまた偏りがなく標準的なものとして、波多野精一「基督教の起源 他一編」を挙げておく。(中略)欧米文学、欧米美術の理解にも、キリスト教の基礎知識は必須である。
基督教の起源 他1篇 (岩波文庫 青 145-1)
小型聖書 - 新共同訳
(呉智英「マンガ狂につける薬 二天一流編」)
参考作品(amazon)
聖☆おにいさん(6) (モーニングKC)
聖☆おにいさん作品一覧
仏教 (岩波新書)
お経の話 (岩波新書)
ブッダ全12巻漫画文庫
基督教の起源 他1篇 (岩波文庫 青 145-1)
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マンガ狂につける薬 二天一流篇
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