2010年12月15日 08:13

アルヴォ・ペルト、「語りえぬ神の音楽は…」。アルヴォ・ペルトの2枚組ベストがamazonで1000円、お勧めです。

Part: the Very Best of Arvo Pa
アルヴォ・ペルト作品一覧

ペルトの偉業は全く驚嘆すべきなのです。彼の音楽は現代の物ではなく、ある意味この世界の物でも無いかのようです。ほとんど根源的な素材だけを使って別の惑星から静かに漂って来たかのようです。我々に休息を与え、悲しみを癒し、超越した存在を感じさせる。そして再びもと来た高みへと静かに消え戻って行く。
(ロバート・シュワルツ「ミニマリズム」)

カラオケをしすぎて喉を痛めてしまい、そこから風邪の菌が侵入したみたいで、風邪を引いてしまいました…。自分の身体の弱さにほとほと悲しくなります…。寒い冬、皆さんも風邪にお気をつけくださいね…。

僕の大好きなエストニアの現代音楽作曲家、アルヴォ・ペルトの2枚組ベストアルバムがamazonから1000円という廉価にて発売されました。ペルトの代表作が収められており、僕は全部単品のアルバムで持っている曲にも関わらず購入してしまいました。僕の持っているアルバムと演奏者が違いますし…。2枚とも視聴した感想は大満足です!!素晴らしいとしかいい様がありません。このベストアルバムをだしているのは東芝EMIでして、演奏・音質共に素晴らしく、良い仕事しているなと感服です。収録曲は以下の通り。どの音楽も、神々しい静謐に溢れており、聴いていると心が和やかに落ち着きます…。

Part: the Very Best of Arvo Pa

1. スンマ(合唱のための)(1977)
2. 7つのマニフィカト(1988、改訂1991)
 ヴァサーリ・シンガーズ、ジェレミー・バックハウス指揮
3. フラトレス(ヴァイオリンとピアノのための)(1980版)
 タスミン・リトル(ヴァイオリン)、マーティン・ロスコー(ピアノ)
4. フェスティーナ・レンテ(弦楽オーケストラとハープのための)
 ボーンマス・シンフォニエッタ、リチャード・スタッド指揮
5. 鏡の中の鏡(ヴァイオリンとピアノのための)
 タスミン・リトル(ヴァイオリン)、マーティン・ロスコー(ピアノ)
6. マニフィカト(1989)
7. 至福(1990、改訂1991)
 ケンブリッジ、キングズ・カレッジ合唱団、スティーヴン・クローベリー指揮
8. スンマ(弦楽オーケストラのための)
9. フラトレス(弦楽オーケストラとパーカッションのための)
10. カントゥス-ベンジャミン・ブリテンの思い出に
 エストニア国立交響楽団、パーヴォ・ヤルヴィ指揮

CD2
1. タブラ・ラサ(2つのヴァイオリン、弦楽オーケストラとプリペアード・ピアノのための)
 タスミン・リトル(ヴァイオリン)、他
 ボーンマス・シンフォニエッタ、リチャード・スタッド指揮
2. スンマ(弦楽四重奏のための)
3. フラトレス(弦楽四重奏のための)
 チリンギリアン四重奏団
4. デ・プロフンディス(深き淵より)
 エストニア・フィルハーモニック室内合唱団、テーヌ・カルステ指揮
5. カンターテ・ドミノ
6. ベアトゥス・ペトロニウス
7. ソルフェッジョ
8. ミサ・シラビカ
 カイア・ウルブ(ソプラノ)、他
 エストニア・フィルハーモニック室内合唱団、テーヌ・カルステ指揮

オルガン曲のトリヴィウムが入っていないのは残念ですが、ほかは文句のつけようのなしに素晴らしいラインナップと思いますね…。トリヴィウムはこんな曲です。

Arvo Part - Trivium
http://www.youtube.com/watch?v=ZBkSA0WtaOo

Trivium

このベストアルバムに入っていないペルトの曲で僕のお勧めは、「Te Deum」「Miserere」「Litany」「Kanon Pokajanen」あたりが神聖さに心打たれ、素晴らしくよろしいかと…。これらの曲は長い(アルバム1枚~2枚分)ので、今回のベストアルバムに収録できないのは仕方ないですね…。ミニマルリズムの作曲家とされることも多いペルトですが、本質的には宗教音楽家だと思います。静謐さを重視するペルトの曲を言葉で言い表すのは難しく、まさに

「語りえぬ神の音楽は、沈黙で表さなければならない」

ということを全身で理解させられる落ち着いた心境になりますね…。音のない静謐さこそがもっとも美しい音楽であるのだということを表しているペルトの音楽は、今という時代においてとても貴重で大切なものだと僕は思うんですね。

商業音楽とコマーシャリズム(TVドラマ、アニメ、CM、ゲーム、その他諸々)が結びつき、常に何らかの属性の音が鳴っている賑やかな現代日本の音楽シーン(まるで筒井康隆の「にぎやかな未来」やグレッグ・イーガンの「新・口笛テスト」そのまま…)の影響下にある日本においてこそ、何の属性にも属さぬ語りえぬ神を歌う静寂に充ちたペルトの曲は、本当の意味で静かにゆっくりと聴かれるべき、理解されるべき、在って然るべき大切な音楽だと僕は思います。

(広告代理店に勤める)アンダーウッドは考えた。トイレットペーパーのCMにバッハ、保険にベートーヴェン、アイスクリームにモーツァルト――それは非道であり、そうでない振りをしても無意味だ。お決まりの議論は何度となく耳にしていたし、自己弁護の為に使ったこともある。偉大な作曲家はみな金や地位や名声のために曲を書いた、いわば自分を売ったのであり、禁欲主義者でも聖人でもない、というやつだが――突きつめればこれは何の弁明にもなっていないとアンダーウッドは思っていた。作曲家がたやすく金で動く人間だったとしても、曲が人々の心の中でなんらかの消費財や企業名としっかり結びつけられてしまったら、曲そのものを楽しむとき、何かが失われるのは確実だ。
(グレッグ・イーガン「新・口笛テスト」「TAP」より)

今日のひどく非宗教的時代の真っ只中で、ペルトの音楽は穏やかな宗教性を放射し、二十世紀後半の音楽スタイルの混乱錯綜した状況にまき込まれるのを拒否しています。
(ロバート・シュワルツ「ミニマリズム」)

先に挙げたペルトの曲、ユーチューブで少しだけなら聴けますね(ユーチューブには部分的にしか置いてありません、実際のアルバムの曲はもっと長いです)

Arvo Part - Te Deum
http://www.youtube.com/watch?v=RFQ2joN1hJw

Arvo Part: Te Deum / Kaljuste, Estonian Philharmonic Chamber Choir

Arvo Part - Miserere
http://www.youtube.com/watch?v=ZFPMpzJ2cNo

Miserere

Arvo Part - Litany
http://www.youtube.com/watch?v=-kQl_QHvwa8

Litany

Arvo Part - Kanon Pokajanen
http://www.youtube.com/watch?v=QkVRo3Wt9HM

Kanon Pokajanen

音楽による神への道ですね…。語りえぬ神の音楽は、沈黙で表さなければならない…。

『Minimalists』K Robert Schwartz 著
http://www.togenojizo.com/x/book/minimalist.htm
彼(アルヴォ・ペルト)の音楽を‘ミニマリズム’で括るべきではないと言う人も多いでしょう。ミニマリストと言うよりは中世研究家であるペルトは深い精神性を持つ古くて新しい音楽を作り出しています。今日のひどく非宗教的時代の真っ只中で、ペルトの音楽は穏やかな宗教性を放射し、二十世紀後半の音楽スタイルの混乱錯綜した状況にまき込まれるのを拒否しています。

 彼は苦労してこの静穏さを手に入れたのです。眉毛の上にも彼の悲しい音楽にも苦闘の跡が残っています。一九三五年エストニアのパイテ生まれのペルトはソヴィエト全体主義と国家無神論政策下で育ちました。母と継父はグランドピアノのある家に引越し八歳のペルトはピアノを習い始めました。このピアノは中音域がほとんど壊れていてペルトは低音域と高音域だけで音楽を探求せざるを得なかったのです。オーケストラのレコードが街の中央広場でたびたび放送されてるのを知った十代のペルトはオケ曲を聴きたいと思いながら広場を自転車でぐるぐる回ったものです。(中略)

 言うまでも無く、(ソ連)当局は必ずしも彼を歓迎しませんでした。この頃にはソ連公認の作曲家たちはペルトが十年以上前に放棄した音列主義を慎重に取り入れ出していたのです。「彼らの九〇%が十二音技法だった時に私はティンティナブリ様式を創り出し、狂っていると再度言われたのです。」

 ティンティナブレーションは鐘を鳴らすというラテン語から来ています。七〇年代後期のペルト作品は古代の響きを湛えたベルの音が使われていましたが彼はもっと比喩的に使っていると言えましょう。つまりこの‘ティンティナブリ’を使って最も純粋且つ最も基本的な音楽要素だけで作られた自分の新しい音楽を言い表そうとしているのです。

 ソ連の文化状況は彼の古めかしい精神性にとっても彼の新しい簡素主義に対しても厳しかったので七〇年代中頃には亡命を望むようになっていました。ペルトの妻ノラがユダヤ系だったので一家はイスラエルを公式の行き先として出国ヴィザを求める事が出来ました。八〇年一月ペルトと妻子はウィーンに着いて、八一年九月には西ベルリンに移りました。正式にはオーストリア市民ですがペルトは今でもこのドイツの首都に居を構えています。

 初めてペルトの音楽が録音されECMから発売された八四年になってから多くの人々にもっと知られるようになりました。世界中のリスナーや評論家は「Fratres」「Cantus in Memory of Benjamin Britten」「Tabula Rasa」という三つのティンティナブリ作品が入っているこのアルバムに深く感動したのです。時を超えたこの新しい音楽は何処から現われて来たのか、そして又この長く黒いひげ、禿げ上がった額、くぼんだ目のまるで旧約聖書の預言者みたいな男はいったい誰なのかと、アルヴォ・ペルトの神秘性を高めました。

 この三作品をアメリカミニマリズムの西ヨーロッパ的派生型とみなすのも確かにうなずけます。ペルトの新しいスタイルはミニマリズムの様に音楽素材を極端に削っていました。初期作品に見られた複雑性、不協和音、音の対立はいなくなり代わりに音階、三和音、アルペジオといった最も簡素・基本的な要素で作られた音楽が、静謐さと霊妙透明な音色と静寂傾向性と共に配置されているのです。ライヒやグラスの速射・運動・ポップ性の反復ミニマリズムとは掛け離れたミニマリズムと言えるでしょう。(中略)

 一九八七年ペルトの2ndアルバム『Arbos』がECMから発売された時インスト音楽だった前作が誤解を生んでいたのが明らかになりました。アメリカの酷く非宗教的ミニマリズムの影響よりも、ペルトの美学は西洋聖歌研究やロシア正教会儀式参加から得られた極めて宗教的なものであることがハッキリしたのです。素材の限定と表面的簡素さがミニマリストにみせていただけなのです。一つ一つの音から最大の感情を搾り出そうとする願いと燃える精神性はミニマリズムを超えているのです。

 ここ数年ペルトはラテン語宗教声楽音楽の作曲に専念しています。八〇年代の三大作品「Passio」(1982)「Stabat Mater」(1985)「Miserere」(1989)は全てキリストの受難関連であり、ペルトの悲しげな音楽にピッタリの主題です。十九世紀ロマン主義や二十世紀表現主義と異なり、ペルトはかなり抑えめ且つほとんど抽象的な方法を使いました。そして現代より遥かに中世に近いテキスト設定には非描写的アプローチを用いこの受難劇を表現しました。だからといってこの曲が無感情なのではありません。とてもシンプルで非常に儀式的整然さを持つ構造の、変化しないゆっくりした反復によって感動が徐々に盛り上がるのです。(中略)

ペルトは富や名声を求めず草木の茂るベルリン郊外で静かに質素に暮らす事を好んでいます。家族と一緒に過ごしロシア正教会の礼拝に参加し、完全な孤独の中で作曲しています。彼はティンティナブリ様式を純粋且つ多大な努力によって取り入れたのであって、後に金銭的成功を収める事とはなんの関係も無かったのです。

 外的政治抑圧や内精神の危機に取り組んでいるのではペルト一人ではありませんし、また一人きりで正教会儀式の熱い神秘主義や時間を超えた西ヨーロッパ民族音楽をミニマリズムと混合させているのではありません。同じような事がポーランドの作曲家ヘンリク・グレツキ(特に爆発的にヒットした「交響曲第三番」(1976))やグルジアの作曲家ギヤ・カンチェリ、英国のジョン・タヴナーにも見られるのです。実際、超活発なアメリカミニマリズムから離れたこれらの作曲家にスピリチュアル・ミニマリズムという新しいカテゴリー名が当てられています。

 ペルトの偉業は全く驚嘆すべきなのです。彼の音楽は現代の物ではなく、ある意味この世界の物でも無いかのようです。ほとんど根源的な素材だけを使って別の惑星から静かに漂って来たかのようです。我々に休息を与え、悲しみを癒し、超越した存在を感じさせる。そして再びもと来た高みへと静かに消え戻って行く。これが真のミニマリズムか否かなんてどうでもいい事なのです。

アルヴォ・ペルト
「ティンティナブリとは私が人生、音楽、仕事に対する答えを見つけ出そうとしてしばしば迷い込む場所なのです。漆黒の時、私は‘この一つの物’以外はすべて無意味だと感じるのです。複雑で多面的なものは混乱するだけなので私は統合された物を探さなくてはなりません。‘この一つの物’とは何なのか、どうやったらそれに近づけるのか。この完全な物への道は色々な外観を取りますが、重要でない道は全て無くなっていきます。そういう物がティンティナブリです。ここに私は一人沈思し、一つの音、一つの無拍、沈黙の一時、に心安らぐのです。私は一声又は二声のとても少ない要素で作曲します。三和音や一つの調といった最もプリミティブなもので作り上げるのです。そんな訳で私はこれをティンティナブリと呼ぶのです」

参考作品(amazon)
TAP (奇想コレクション)
にぎやかな未来 (角川文庫)
Part: the Very Best of Arvo Pa
Arvo Part: Te Deum / Kaljuste, Estonian Philharmonic Chamber Choir
Miserere
Litany
Kanon Pokajanen
Trivium
アルヴォ・ペルト作品一覧

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