2010年10月23日 18:04

「狼の口 ヴォルフスムント 第2巻」読了。凄みのある異色の傑作、ノンフィクションを読んでいるようです。

狼の口 ヴォルフスムント 1巻 (BEAM COMIX)
狼の口 ヴォルフスムント 2巻 (ビームコミックス)

以前ご紹介させて頂いた(http://nekodayo.livedoor.biz/archives/1251628.html)、久慈光久「狼の口 ヴォルフスムント」の第二巻を読了。第二巻の展開、非常に驚きましたね…。主要な登場人物が国家や階級の立場を示すような形で描かれるのだろうな…と思いながら読んでいたら…『この人物は物語の狂言回し的主人公なので、死ぬはずはない』と予想していた人物が第二巻であっさりと死んでしまって、驚きです。いやあ…良い意味で、全く先が読めないです。

この漫画は群像劇で、誰か一人に焦点を当てるのではなく、スイス連邦の独立闘争の状況を、「狼の口」と呼ばれる関所を中心として多角的に描いているのですが、それでも、読み手としては、ある程度、物語において重要性を持っている人物を追いながら感情移入して読むわけですね。本作では、独立闘争を弾圧するオーストリアの手によって、独立派の人々がどんどん死んでゆくのですが、主人公だと思っていたキャラクターまでもあっさり死んでしまいました。予想のつかない展開の、凄みのある漫画ですね…。

手塚から白土へと継がれた大河物語は、冷戦や階級闘争を寓話にして表現する手法を伴っていた。物語中のある人物が大国や階級を代表する形で描かれ、国際間や階級間の矛盾はそうした人物間の矛盾に置き換えられる。
(夏目房乃介「マンガと「戦争」」)

第一巻を読んだときは、上記で夏目房乃介さんが述べているような図式で読み取れる漫画かなと思っていましたら、第二巻を読んでその予想は良い意味でひっくり返されたという感じですね。この漫画は登場人物に状況を代表させるのではなく、状況そのものを描いているのだなと感じます。どの登場人物からも慎重に距離を置いて、時間と共に変化する状況を丹念に描いていて、フィクションのドラマ・寓話というより、ノンフィクションのルポタージュ・実話を読んでいるような感じです。状況のみを描くという形式において、物語のカタルシスの作法(読者が感情移入する善側の主人公はあっさり死んではならない等のお約束の前提)をあっさり破って、状況を描くことに専念している。白土三平さんよりも、状況の描き方がより徹底していますね…。

第二巻を読むとはっきりしますが、この漫画の主人公は、スイス連邦独立闘争の渦中にある関所「狼の口」そのもの、主人公は人間ではなく、戦略的に極めて重要な要衝たる『場所』こそが主人公そのものであるという形ですね…。これは、登場人物に焦点が置かれる一般的な漫画とは違った面白さがあります。非常に良く出来た異色の漫画です。漫画好きで本書未読のお方々は何としてでも読む価値のある漫画と思います。お勧めですね。

参考作品(amazon)
狼の口 ヴォルフスムント 1巻 (BEAM COMIX)
狼の口 ヴォルフスムント 2巻 (ビームコミックス)
鎧光赫赫 (ビームコミックス) (BEAM COMIX)
マンガと「戦争」 (講談社現代新書)
カムイ伝全集―決定版 (第1部1) (ビッグコミックススペシャル)
忍者武芸帳影丸伝 (1) (小学館文庫)
甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)
雪の峠・剣の舞 (アフタヌーンKCデラックス)

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