Complete Recordings on Deutsche Grammophon [Box Set]
神童 (1) (Action comics)

昨日、ドイツ・グラモフォンの111周年記念BOXについてご紹介させて頂いたので、今回は、僕の持っているドイツ・グラモフォンのアルバムの中でも大のお気に入りである「HOROWITZ Complete Recordings on Deutsche Grammophon」をご紹介致します。

本アルバム「HOROWITZ Complete Recordings on Deutsche Grammophon」は、ホロヴィッツが1985年〜1989年という彼の最晩年(彼は1989年11月に死去)の演奏集。彼はこの時期、ドイツ・グラモフォン専属契約をしており、彼の最後の貴重な演奏を全て収録している6枚組のボックスセットです。ホロヴィッツは1903年生まれですから、この時は82歳〜87歳の時に当たりますが、年齢の衰えを感じさせない優れて見事な演奏で、驚かされました。6枚のうち、モスクワでの演奏を収録したCD3、偉大なる指揮者にして義父トスカニーニの故郷イタリアでモーツァルトを演奏したCD4、マイホームであるニューヨークでの演奏のCD5、僕のベスト・ピアノアルバムですね。

日本では、音楽評論家の吉田秀和さんが1983年に『ホロヴィッツはひびの入った骨董品に過ぎない』と激しく批判したことから、晩年のホロヴィッツ演奏のイメージは日本においてよくありません。しかし、少なくとも、ホロヴィッツが残した最晩年の録音、このボックスアルバムや有名なベルリン・リサイタル、モスクワ・リサイタル、ラスト・レコーディングを聴く限りにおいて、吉田秀和さんのホロヴィッツ批判は、見当違いの外れたものであるとしか僕には感じられません。最晩年のホロヴィッツは年齢を超えて、非常に優れた演奏を見せています。音を完璧にコントロールし、深みのある解釈で美しいという言葉を越えた壮絶な演奏を聴かせる、幽玄という言葉が相応しい、感銘を受ける名演奏です。

ウィキペディア「ホロヴィッツ」
http://ja.wikipedia.org/wiki/ウラディミール・ホロヴィッツ
1985年、ホロヴィッツはドイツ・グラモフォンと専属契約を結び再びレコーディング活動を始めた。この頃には、極度の技巧を要する曲に固執することをやめ、最弱音から強音まで完璧にコントロールされたデュナーミクと、独特のタッチとペダリングを使い分けることによって生み出される色彩豊かなトーンで聴衆を魅了し続けた。なお、ホロヴィッツというと爆音を鳴らすピアニストのように言われることが少なくないが、実際には、最弱音が弱音でありながらホールの一番後ろでも美しく聴こえることにこそ特徴があり、これとの比較で強音が轟音に感じられるに過ぎない。CDでは実際の演奏の魅力を伝えきれないと言われるゆえんである。1986年には、およそ60年ぶりの祖国となるモスクワ、次いでベルリンでもコンサートを開き、絶賛された。その模様は今日CD等で発売されている。初来日時の不調を気に病み続けていたホロヴィッツはこの年日本を再訪した。

指さばきの速さや難曲におけるミスタッチの少なさであれば、現代ではホロヴィッツ以上の技巧を持つピアニストは少なくない。しかしながら、一般の聴衆だけでなく実演に接したほとんどの評論家やピアニストも「ホロヴィッツの音は独特であった」と口を揃えて証言しており、ピアノを歌わせるという点で彼に比肩しうるピアニストを見出すことは困難である。

結果的に最後のレコーディングとなった小品集のレコーディング(「ザ・ラストレコーディング」として発売)を終えた4日後の1989年11月5日、自宅で食事中に急逝、ミラノにある義父トスカニーニの霊廟に共に埋葬された。(中略)

日本では現在でも初来日時(1983年)の吉田秀和の批評のみが一人歩きをする形となっており、実演はおろか全盛期の録音すら聴いたことがないにもかかわらず、「ホロヴィッツは若い頃は技巧のみの知性に欠けたピアニストで、老年に達してからは『ひびの入った骨董品』でしかなかった」と評価されることがある。

勿論、1960年〜70年代前半の演奏のような、澄み切ったパワフルさ、音を強く鳴らしてゆく展開を80代である晩年のホロヴィッツは持ちませんが(これは人間の体力的に不可能でしょう)、その分、音のコントロールが素晴らしく(本アルバムのCD4のモーツァルトなど、パーフェクトと叫びたくなる出来)、そして、幽玄と言っても過言ではない音楽解釈の奥深さを会得しています。素晴らしいですよ…。晩年のホロヴィッツは、『ひびの入った骨董品』どころか、『輝かしい宝石』と呼ぶべき演奏を聴かせてくれます。良い意味で個性的な解釈による独創的な演奏は聴く者の胸に豊かな情感を溢れさせます。本当に良いですね…。お勧めです。

ピアノ漫画の傑作、そして僕の大好きな漫画である、さそうあきらさんの「神童」には、最晩年のホロヴィッツをモデルにしたピアニストが出てきますね(ロブコウィッツという名前で登場)。僕は、この漫画も、ホロヴィッツのピアノ演奏も、どちらも大好きなので、ホロヴィッツが出てきたときは嬉しかったなあ…。最後に、さそうあきらさんの「神童」から引用致しますね。ヒロインのピアニスト成瀬うたとロブコウィッツが弾き比べをするシーンです。

ショパンの革命エチュードが少女の手とは思えないほどの音量で弾かれている。しかも一音一音が磨きあげられたダイヤのように輝いて――

これはまさしく………

ワンダ(ホロヴィッツ夫人。トスカニーニの娘)
「若い頃のヴォロージャだわ!!」

ホールがオルガンみたいに鳴っている……
革命の戦士達の亡霊が――あばれだす

ロブコウィッツ
「ひぃっ ワンダァ ワンダァ」

ワンダ
「ヴォロージャは戦争にまつわる曲をこわがるのよ。ユダヤ人として迫害された時代をおもいだすの」(ホロヴィッツはユダヤ系。実際の彼はプロコフィエフの戦争ソナタとか戦争にまつわる曲も見事に弾いています)

成瀬うた
「やーい みつけたっ 泣き虫毛虫たたんで捨てろーっ」

ロブコウィッツ
「くそーっ」

ワンダ
「ヴォロージャ むきにならないで!」

若い頃なら対等以上にわたりあえたはず――しかし 今では肉体的な衰えはかくせない……

(ロブコウィッツ、ピアノを弾き始める)

「シューマン、子供の情景からトロイメライ――」

「初心者でも弾けるようなあの小さな曲が、ロブコウィッツの手にかかって――光りだした」

くもっているが…大切な真珠――

往年のように指がまわらなくても、ロブコウィッツには、あのタッチがあった――鍵盤の宙空をいたずらにこすりひっかいて――まるで鍵盤に触れていないように動いている………!
(さそうあきら「神童」)

「HOROWITZ Complete Recordings on Deutsche Grammophon」のCD3の13曲目とCD6の11曲目で漫画の通り、ホロヴィッツがトロイメライを弾いているので、その演奏を聴きながら、上記のシーンを読むと、何ともいえない嬉しい気持ちになりますね…。

参考作品(amazon)
Complete Recordings on Deutsche Grammophon [Box Set]
Legendary Berlin Concert 18TH May 1986
モスクワ・ライヴ1986
ザ・ラスト・レコーディング
展覧会の絵&戦争ソナタ〜超絶技巧名演集
ホロヴィッツ/ショパン・アルバム
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