昨日更新できずに申し訳ありません。また風邪をひいたみたいで、とても熱っぽいです…。今回は、これから始まる長いお休み、ゴールデンウィークにプレイをお勧めの、フリーゲームならではのユニークさを持ち、時間的にもたっぷり楽しめるソフトを2本紹介させて頂きますね。皆様方のお役立てになれば幸いです。

「ドラゴンクエスト 悪霊の勇者」公式サイトさん
http://marassoft.oh.land.to/

一つ目の紹介はフリーのRPG「ドラゴンクエスト 悪霊の勇者」です。題名通り、「ドラゴンクエスト 悪霊の神々」をオマージュした、いわゆるクローンゲームです。しかしただのクローンゲームではありません。これはドラゴンクエスト兇5年後の世界を舞台に、オリジナルドラクエ供△修靴謄疋薀エシリーズを見事に反転させた内容になっているのですね。逆さまになったドラクエという感じです。

どういうことかと言いますと、本作はドラクエ兇離薀好椒糠鵬神シドーを倒すとき、シドーが今わの際に、ローレシアの王子へ裡なる欲望が目覚める呪いを掛けたところから始まる物語なんですね。ローレシアの王子はだんだんと自らの裡なるダークサイドに支配されてゆき、ついには王権簒奪の為に父王を暗殺することで完全にふっきれて、全世界を征服し、全てを自らの手中にしたいという欲望の為に行動するようになります。

通常のドラクエの価値観なら、このローレシアの王子を正気に戻す為にサマルトリアの王子やムーンブルグの王女が頑張るといったシナリオになるでしょうが、本作は「逆さまなドラクエ」なので、そうはなりません。ダークサイドに落ちたローレシアの王子を主人公として、サマルトリアの王子やムーンブルグの王女を屈服させ、世界を征服してゆく物語なのですね。これが非常に面白い。

ダークサイドに落ちたローレシアの王子は、5年前に世界を救った勇者だけあり、『凄く強くて凄く悪い』奴なんですね。しかも、周囲の人々は彼のことを「世界を救ってくれた勇者様」と認識している、その信頼を逆手に取って、世界を手中に収めてゆきます。スターウォーズエピソード3のアナキン・スカイウォーカー(ダースベイダー)みたいなもので、凄く強くて凄く悪い奴が活躍する物語は、実に爽快なものがありますね。勇者の時のような縛りがない分、ローレシアの王子の行動は半端なく欲望そのままで邪悪の極みですが、それが、ドラクエの勧善懲悪世界観を上手に逆転させていて爽快です。ピカレスク・ロマン(悪漢小説、悪人が主人公の物語)の傑作だと思いますね。RPGとしてのゲームバランスも良好、お勧めの作品です。プレイボリュームもたっぷりです。

「Merry X'mas you, for your closed world, and you...」(ベクター)
http://www.vector.co.jp/soft/winnt/game/se481372.html

二つ目に紹介させて頂くのは、フリーのアドベンチャーゲーム「Merry X'mas you, for your closed world, and you...」です。これは、18禁ゲーム、いわゆる萌えエロゲーと呼ばれるゲーム世界に、現実世界に生きていた主人公がなぜか入ってしまったという物語でして、萌えエロゲーの価値観を徹底的に情熱を込めて批判した作品、反転した萌えエロゲー、逆さまの萌えエロゲーになっているゲームです。

どういうことかと言いますと、本作の舞台となる萌えエロゲーの世界は、無限地獄のような世界なのですね。テッド・チャンの小説の題名に「地獄とは神の不在なり」というのがありますが、これに習っていうならば、「地獄とは人間の不在なり」といったような世界です。萌えエロゲーに出てくるのは、ヒロインだけであり(ヒロインしかいない世界)、世界は背景があるところしか行けず、そして、当然のことながら、ヒロインは人間ではありません。

この物語において、主人公とヒロインしかいない学校世界で、人間としての魂を持つ主人公は孤独に悩まされることになります。なぜなら、ヒロインは、スクリプト(簡易プログラム)で動く、魂のない書割そのものの存在であり、しかも、不可能図形である二次元絵ヒロインが三次元に立体化されているので、クトゥルフ神話の化け物のように、三次元立体として物理的に決してありえない造形の存在なのですね。ヒロインを殴りつけた主人公がその感触(物理的にあり得ない感触)にクトゥルフ的恐怖を覚えるシーンは吹きました。

このヒロイン達の怖いところは、ただ決められた台詞を喋っているだけで、あらかじめゲームシナリオとしてゲームスクリプトに決められた対応しかできない、本当に単なる書割が三次元化されたものであるところです。主人公がゲームスクリプトにはない言動を取ると「は?」とか「へ?」としか言わないし、主人公の話を聞かず、ただひたすら、あらかじめゲームシナリオとして定められた台詞を喋るだけの存在です。例えば、あらかじめ定められたゲームシナリオで「ヒロイン同士がイベントによって知り合う」となっているところに到達するまでは、ヒロインは他のヒロインを認識できなかったり、まともな会話が不可能だったり(ヒロインはゲームシナリオで定められた書割台詞を一方的に喋っている)、何より極めつけの恐怖は、状況に耐えられなくなった主人公がヒロインを殺しても、何も無かったこととして平気で甦るんですね。

萌えエロゲーの中に入ってしまったらどうなるか、ということを、それは恐怖に充ちた孤独の無限地獄の世界、魂の牢獄であるとして、上手に描いている良くできた不条理ホラーですね、お勧めです。ただ、一つ難点がありまして、ラストが特に落ちのない投げっぱなしエンドになってしまっているんですね…。終盤までの盛り上がり、主人公の絶望と萌えエロゲーに対する情念の篭った怨嗟(萌えエロゲーに対する激しい全面的な批判)はなかなかのものなので、これでなんらかの意外性がある落ちがあったら、更に優れて完成度の高いものになったと思います、惜しいですね…。

それでも、ラストが投げっぱなしになっている点を鑑みても、全体的な完成度は極めて高いです。物語自体よりも、物語を通して訴えていることの方が比重が大きい、不条理な風刺物語の傑作だと思います。萌えエロゲーが如何に陳腐などうしようのないものであるか、小説を通して作者さんが物凄い情熱を込めて訴えているところに感銘を受けましたね。陳腐であること自体はどうしようもないことですが、陳腐であることを情熱を込めて批判することは、傑出したものになり得るのだなと感じさせてくれました。「凡庸な芸術家の肖像」を思い出しましたね。凡庸を主題にして非凡なものを書き得ることは可能なように、陳腐を主題にして傑出したものを書き得るということを示した良作アドベンチャーと思います。お勧めですね。

「ドラゴンクエスト 悪霊の勇者」公式サイトさん
http://marassoft.oh.land.to/

「Merry X'mas you, for your closed world, and you...」(ベクター)
http://www.vector.co.jp/soft/winnt/game/se481372.html

今回紹介させて頂いた2作は、どちらとも商業作品としては決して出ないであろう作品、既存の価値(ドラクエ・萌えエロゲー)を徹底的に反転させて風刺した作品、フリーゲームならではのエッジの効いた作品です。既存の価値観とは別の価値観に触れるというのは、大きなリフレッシュになりますので、ゴールデンウィークに如何でしょうか。どちらもお勧めの作品です。今回紹介した2作ともに、ニーチェのパースペクティヴ主義に影響を受けているようなところがあって(Merry X'mas you, for your closed world, and you...ではよりダイレクトに示されている)、そこから上手に物語を組立てている。この2作は共に、プレモダン世界(固定化された単一の価値観世界、ドラクエ世界の価値観・萌えエロゲー世界の価値観)に対し、その価値観とは別の価値観の物語をその世界に持ってきて、プレイヤーの価値観を多様化するという手法を見事に成し遂げていますね。

「"よい"というのは、視点の問題だよ、アナキン。ジェダイの"善"が、唯一の善ではない」
(マシュー・ストーヴァー「スターウォーズ エピソード3 シスの復讐」)

モンテーニュは(エセーにおいて何かを語るとき)、説得しようとはしないで、古人の故事(過去の出来事・過去の物語)を示す。それは、良心の命令とか道徳的義務のように強制するのではなく、考えさせるのである。故事が何を示しているのかを、完全に言い当てることはできない。そこから何を汲み取るかは、受け手に大きく依存するからである。モンテーニュが目指すのは、たんに盲目的な道徳性なんかではない。
(田島正樹「ニーチェの遠近法」)

参考作品(amazon)
スター・ウォーズ エピソード3 シスの復讐 (ソニー・マガジンズ文庫―Lucas books)
スター・ウォーズ エピソード3 / シスの復讐 [DVD]
ニーチェの遠近法 (クリティーク叢書)
凡庸な芸術家の肖像〈上〉―マクシム・デュ・カン論 (ちくま学芸文庫)
凡庸な芸術家の肖像〈下〉―マクシム・デュ・カン論 (ちくま学芸文庫)
エセー〈1〉
エセー〈2〉
エセー〈3〉

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