素晴らしき日々 ~不連続存在~ 特装初回版

ソフトハウスケロQの新作ゲーム「素晴らしき日々」コンプリート。1999年に発売されたケロQの処女作「終ノ空」を再構成した作品です。旧作「終ノ空」に比べて、遥かに完成度が高く出来の良いサイコミステリに仕上がっていますね。メインとなる叙述トリックが作品全体を貫く大掛かりなものであり、その効果もあって、謎が解き明かされてゆく物語前半の盛り上がりには素晴らしいものがあります。ただ、前半のシナリオ(プロローグ及び前半の水上・間宮・高島シナリオ)で物語に仕掛けられた重要トリックがみな明かされてしまうので、後半の物語展開は、前半に比べると大きく失速してしまうのが残念ですね…。

本作は最初、スーパーナチュラル要素(超常的要素)を含むホラーかと思いながらプレイしたのですが、実際は、スーパーナチュナル要素のない、ロジカルに全てが構築された純然たるミステリ(小林泰三さん風味のサイコミステリ)だったのも、僕的には好感ですね。どうも最近は、『モンスターが出てきて人々がキャー、ヒーローヒロインが不思議な能力で敵をぶっ飛ばす』みたいなファンタジックな新作に対しては、興味が湧かなくなってきているので…。ホラー界の各賞を総なめにしている新進ホラー作家にしてスティーヴン・キングの息子ジョー・ヒルが、『スーパーナチュラルホラーにはもううんざり』みたいなことをよく書いていますけど、僕もまさにそういう感じですね…。

いまでは、いったん読み始めても、結末まで読み通す(ホラー小説)作品はほとんどない。(物語の陳腐さに)耐えられないのだ。またぞろ吸血鬼と吸血鬼がセックスする話を読まされると思うと、それだけで気力が萎えた。ラヴクラフトを模倣した作品を無理して読み進めても、痛々しいほど真剣な「旧神」への言及が目にはいったとたん、自分の内面のどこか重要な部分が麻痺するのを感じた。血行が阻害されて手足が眠ったようになるのにも通じる感覚。
(ジョー・ヒル「年間ホラー傑作選」「20世紀の幽霊たち」より)

本作「素晴らしき日々」は、大掛かりな叙述トリックが仕組まれたミステリと言うことができると思います。物語のメインとなる叙述トリックから派生する展開の不可解さが物語前半にホラー的な面白みを出していて、前半の3シナリオ(水上・間宮・高島シナリオ)は非常に面白いです。超常現象風に見える事象の謎が、理詰めで解けてゆくミステリの楽しみがたっぷりと味わえます。

本作の物語は、舞台となる学校にて謎めいた集団自殺事件が起きるまでの数十日間の様相を、複数の視点から描くことで解き明かすミステリー。ネタバレを避けるため具体的記述はしませんが、メインとなる叙述トリックは、気づいたときはやられたと思いましたね。一人称であることを最大限に活かした叙述トリックです。プレイし始めた最初は、極めて奇怪にして謎の超常事象が起きているのではないかと感じさせられますが、事件を眼差す視点がスイッチしてゆくことで、それらの謎は論理的に明晰に解けてゆくので、シナリオを読み進めることが純粋に楽しい作品ですね。まさにミステリの醍醐味です。

ウィキペディア「ミステリー」
仁賀克雄によるミステリー小説の定義では、「発端の不可思議性」「中途のサスペンス」「結末の意外性」が挙げられている。「発端の不可思議性」とは、最初に奇妙な事件や謎を提示して読者を引きつけることを指す。これを作者は論理的に解明していくが、同時に読者が自ら推理を試みることを期待し、作者との知恵比べが行われる。「中途のサスペンス」は謎の提示と最終的な解明をつなぐ部分をいう。不安感を煽る事件を起こしたり、推理の手がかりを提供したりして、エンターテインメントとして読者の興味を引き離さない工夫がなされる。「結末の意外性」はそれらを受けた最も重要な部分であり、読者の予想を裏切る形で謎や真相の解明がなされる結末のことである。

ただ、本作は物語の前半において、作中の重要な謎は全部明かされてしまうんですね…。物語前半、高島シナリオまでは、たっぷりの謎とサスペンス、そして謎解きに満ちたシナリオが非常に面白いのですが、本作の謎解きシナリオである高島シナリオ以降のシナリオは、既に答えが分かっている問題の答え合わせをひたすらしているだけになっています。物語前半の面白さに比べると、物語後半の失速ぶりは甚だしいです…。

この作品、前半の出来の良さ、前半の面白さだけで言うならかなりのものなんですが、前半で重要な謎が全て明かされてしまうことで、後半が著しく失速してしまうので、評価が難しいですね…。ただ、PCゲームのシナリオは先に述べた『モンスターが出てきて人々がキャー、ヒーローヒロインが不思議な能力で敵をぶっ飛ばす』のような超常的なファンタジーばかりがやたら多いので(ファンタジーはどんな設定でも可能なため、安易に多用される)、そういった安易な設定に逃げず、『一貫した論理的整合性のある読めるミステリ』として作品をきちんと完結させているのは称賛に値すると思います。

本当に惜しい作品です。本作は前半でミステリの3要素(発端の不可思議・中途のサスペンス・最後の謎解き)が全部完結してしまう。前半が本作の全てであり、後半は前半の絞りかすみたいな作品なんですね。前半が良く出来ているだけに、本当に惜しいです。構成に手を入れて、前半のシナリオにある緊迫感と謎解きの醍醐味が後半にも持続するように出来ていたら、PCゲーム史上におけるサイコミステリの最高峰になっていたと言っても過言ではないと思います。前半の出来の良さを見るに、後半のグダグダぶりで、作品としての出来が下がっているのが非常に惜しいとしか言い様がありません。

本作、物語前半はとても面白いので、ミステリが好きで、面白いミステリゲームがやりたいというお方々にはとても良い作品であると思います。ただ、後半の展開はひたすら前半の答え合わせをしているぐだぐだ展開なので、作品は一貫して完成度が高くなければダメというお方々にはあまりお勧めできないかも知れません。

参考作品(amazon)
素晴らしき日々 ~不連続存在~ 特装初回版
20世紀の幽霊たち (小学館文庫)
モザイク事件帳 (創元クライム・クラブ)

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