2010年04月19日 03:22

「音楽と戦争」。Angel Beats!等の無邪気な「音楽+戦争アニメ」・現実の戦争において小道具にされる音楽。

そして戦争は終わらない 〜「テロとの戦い」の現場から
Angel Beats! 1 【完全生産限定版】 [Blu-ray]
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BPO(放送倫理・番組向上機構)公式サイト
http://www.bpo.gr.jp/audience/opinion/2009/201003.html
女の子が変身して戦い、敵に対してお尻を向けて攻撃していた。ラジオやバラエティー番組は下品だというが、子どものアニメも下品すぎる。戦いが終わって妖精が身震いして黄色いものを出すことも、日曜の朝にやることなのか疑問に思った。

BPOの公式サイトにおかしな苦情が載っていると聞いて、見にいってみたら、なんじゃこりゃ…。ちっちゃい子向けのほのぼのしているアニメ(プリキュア)に対して、わざわざBPOにこんな苦情を申し付けるとか、本当に「ものは言い様」としか…。BPOに寄せられている苦情、物凄くどうでもいい表層的なレベルでの苦情で、ガクッと来ました。アニメ番組における倫理的問題点というものは、画面にわかりやすく現われる表層的などうでもいいことではなく、もっと深いところに別の形で現われるものだと僕は思いますね。

僕が今のアニメで倫理的におかしいなと一番強く思うものは、ロックなどの歌を作中における軍事的な小道具として、戦争(大規模な戦争とまではいかない、重火器を使った局地戦なども含む)に使うアニメ、音楽(ミュージック)と戦争(ミリタリー)を物語のレベルで無邪気に結び付けているアニメです(例えば今放映中のアニメだとAngel Beats!)。

こういうアニメ作品で音楽と戦争を安易に結びつけたシーンを見ていると、音楽好きとして、非常に悲しい気分になります。なぜならば実際に、現代の戦争において(例えばイラク戦争など)、米海兵隊が敵地に突撃するときとか、メタルとかのロック音楽をスピーカーで流しながら敵地に突撃する訳ですよ。実際の戦場において、自軍士気を高める・敵の士気を下げる、敵の撹乱などの効果を狙って、軍事作戦実行に大衆音楽は使われている訳です。音楽に乗って突撃して敵味方殺しあう訳です。これは音楽好きとしては酷く悲しくて嫌なことなんですが、そういった現状を全く考えずに、アニメにおいてミュージックとミリタリーを「音楽と戦争は二つとも視聴者を興奮させる材料である」として簡単に結びつけるアニメシーンを製作側が無邪気に喜びながら描いている。こういう、あまりにも物知らずに見えるアニメ業界の手法は、もう少し考えられてもいいんじゃないかと思います。

フィクションにおいて音楽と軍事を結びつけることがダメだという訳では勿論ありませんが、現実の戦争において音楽が戦争の小道具にされていることもきちんと鑑みて欲しいです。アニメにおいて音楽を戦争の小道具の一つとして使うならば、もう少し、そのことに対する内省的な視点があってもいいんじゃないでしょうか。音楽を戦いの小道具として安易に戦争と結びつけたアニメ作品を見ると、この作品の製作者にとって音楽も戦争も道具に過ぎないんだな、音楽を愛していないなと感じますよ…。

従軍ノンフィクション「そして戦争は終わらない 『テロ』との戦いの現場から」の「地獄の鐘の音(Hells Bells)」の章から引用致しますね。これはニューヨーク・タイムズの従軍記者による、米軍のイラク戦争・イラク統治の現状を描いた力作ドキュメンタリーでして、2009年全米書籍批評家協会賞を受賞しました。これから引用する部分は2004年11月イラクにおいての海兵隊によるファルージャ制圧作戦での実際の出来事です。

「地獄の鐘の音(Hells Bells)」

イラク、ファルージャ、2004年11月

そのやり取りが交わされたとき、海兵隊員たちは屋根の上で腹ばいになって伏せていた。午前二時のことである。モスクのミナレット(尖塔)が空爆の明かりで浮かび上がり、ロケット弾が光の尾を引いて飛び交っている。そんな中、モスクから最初の呼びかけが発せられた。雷鳴のような銃声をしのぐほどの音量で。

「米軍はここにいるぞ!」ミナレット内のスピーカーから絶叫が響き渡る。
「これは聖戦である。モスクの都市のために今こそ立ち上がり、戦うのだ!」
弾丸が四方八方から、そして際限なく飛んでくる。頭を上げる兵士はいない。
「ひでえな」兵士が相棒に向かって声を張り上げた。
「まったくだ」相棒がそれに応える。「まだ家一軒を奪回しただけなのに」

そのとき地面の下から、聞きなれぬ音が響いてきた。不吉で恐ろしい、激しい音だ。肩越しに振り返り、自分たち(米軍海兵隊)が来たほう、ファルージャ北端に広がる何もない荒野を見る。海兵隊の一団が、(米軍の)巨大なスピーカーの方に立っていた。ロック・コンサートで使用されるようなやつである。

(米軍がスピーカーで流し始めたのはロックバンドの)AC/DCだった。オーストラリアのヘビーメタルバンドの奔放な音が、あたりに吐き出される。曲名はすぐにわかった。「地獄の鐘の音(Hells Bells)」悪魔の力を称賛する歌が戦場に響き渡った。教会の鐘の音に、ギターの旋律がかぶさる。鐘の音の数は十三。

俺はとどろく雷鳴、どしゃ降りの雨
ハリケーンのようにやって来た
俺の稲妻が空に閃光を走らせる
若いからって死の運命からは逃れられないぜ

海兵隊員がスピーカーの音量を上げると同時に、砲撃の音が遠ざかっていく。空爆で目の前の家々が粉々になり、一瞬で建物が消えていた。モスクからは、怒りで我は忘れた声が聞こえ、町の北端まで届いている。

「アラーアクバール!」モスクから、男の絶叫がこだました。「アラーアクバール!(神は偉大なり!)神の道のために、信仰と国のために死ぬのは、最高の誉れである!」

俺に虜はいらない、生け贄もいらない
俺に抵抗しようとしても無駄だ
俺の鐘(ベル)で、お前を地獄(ヘル)に引きずり込む
お前は俺のもの、悪魔のもの!

「神は偉大なり!」

叫び声は、目の前の家々が見る影もなく破壊され、(米軍の作戦に合わせて鳴り続ける)曲が終わるまでやまなかった。

ファルージャは、七ヶ月もの間ジハーディ(聖戦を行う戦士)たちによって支配され、中世のような生活を強いられていた。十一月の真夜中、ファルージャを奪還すべく、海兵隊六千人の歩兵が市内に進軍した。私が従軍していたのは、第一大隊大八連隊、通称ブラボー中隊と呼ばれる、総勢百五十名の中隊である。
(デクスター・フォルキンス「そして戦争は終わらない 『テロ』との戦いの現場から」)

Back in Black
Back in Black

音楽は現実の戦争の軍事作戦の一部分として組み入れられているんですよ…。音楽を軍事作戦の一環として使うAngel Beats!の第一話とか、現実の戦争の構造(戦争の部分となった音楽)をそのまま肯定的に無邪気に踏襲している作品で、音楽好きとして、酷く悲しくなるものがありましたね…。たぶんアニメの製作者は深く考えていないというか、おそらくは何も考えずに音楽ネタと戦争ネタを組み合わせてアニメを作っているのだと思いますが、「音楽と戦争」を組み合わせて描くなら、少しは現実において起こっている「音楽と戦争」の在り方というものを考えに入れた方が、作品の出来という観点から見ても良いのではないかと思いますよ。

参考作品(amazon)
そして戦争は終わらない 〜「テロとの戦い」の現場から
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