2010年02月10日 21:16
エーリッヒ・ツァンなるピアノ音楽の世界「ピアノ・サーカス」(Piano Circus)。酔歩する音楽とラヴクラフトと猫たん。
Skin and Wire
ラヴクラフト全集〈6)(未知なるカダスを夢に求めて)
今回は僕の好きなピアノ・アンサンブル「ピアノ・サーカス」(Piano Circus)をご紹介しようと思います。「ピアノ・サーカス」は前衛的な現代ピアノ音楽を演奏する為に1989年に設立されたアンサンブルでして、奇怪としか言い様のない異様なピアノ音楽曲の数々をリリースしてきたヘンテコなピアノ・アンサンブルです。僕の好きな現代音楽作曲家マックス・リヒターが演奏メンバーの1人として参加しています。彼らはプリペアド・ピアノは使わず、あくまで調律された普通のピアノを使って異様なピアノ曲を演奏しまして、聴いていると異次元に引きずり込まれて精神が崩壊しそうになるような、音楽として全てが狂っている曲の数々は一種のトリップ感があり、僕の好きなアンサンブルですね…。アルバム「セクステット」から引用致します。
彼らのピアノ演奏は、スティーヴ・ライヒとかの聴きやすい有名音楽も演奏していますが、大体においては理解を絶した奇怪な前衛ピアノ音楽でして、聴いているとまるでラヴクラフトのクトゥルフ神話作品や日本で言えば小林泰三さんのホラー小説や諸星大二郎さんのホラー漫画を読んでいるかの如き、異次元的変容を感じる異様なピアノ音楽体験をすることになります。彼らが演奏する奇怪なピアノ曲「1-100」(作曲はマイケル・ナイマン)などは生理的な不快感がこみ上げる異様な無調音楽でして、聴いていると実に悪夢的、不条理ホラー的な体験をすることになります。エーリッヒ・ツァンが作曲した音楽を聴いているかのような感覚ですね…。
電子音楽機器を使い生理的に悪寒吐き気を催す異様な音を出す奇怪な曲の数々を作曲したクセナキスの現代曲とは違い、ピアノ・サーカスの奏でる曲は全てきちんと調律されたノーマルなピアノのみを使って奇怪なる音を出している(たまに電子オルガンも使っていますが…)のが凄いところでして、ピアノという楽器の新たなる悪夢的可能性を開いたと言えるでしょう。彼らが演奏する異様な曲を聴いていると『なぜ人間は十二平均律に基いた美しい音を奏でるピアノを使って、聴衆が吐き気を齎す奇怪にして不条理にして不気味な無調音楽を作曲し演奏するのか…そしてなぜそれを聴いているのか…』との思いに耽らずにはいられません。
なんといいますか、ホラー小説やホラー映画、先に挙げたラヴクラフトのクトゥルフ神話や小林泰三さんや諸星大二郎さんの作品のような、現実変容感のあるホラー作品を鑑賞するという感じを伴った音楽体験として捉えれば、ピアノ・サーカスの演奏はなかなか楽しめるものです。ピアノ・サーカスの為に作曲するアーティストもそれは重々承知しているようでして、例えばピアノ・サーカスの為に奇怪なピアノ曲「3つのダンス」を作曲したロバート・モランは次のように語っています。
ピアノ・サーカス、ホラー好きにはお勧めのピアノ・ミュージックですね。これをBGMにラヴクラフトや小林泰三さんの「酔歩する男」や諸星大二郎さんの「栞と紙魚子」などを読むと、異様な作品世界同士がベスト・マッチし、悪夢的異次元的ドリームワールドへの読書体験が味わえると思います。
「未知なるカダスを夢に求めて」は、猫大好きな愛猫家で、猫と一緒に1人暮らしをしていたラヴクラフトが、『大好きな猫達をパートナーにして一緒に夢の国を大冒険!』という彼自身の夢のファンタジーを満足させた作品でして、猫好きでホラー好きのお方々は一読の価値のあるファンタジーホラー小説だと思います。ラヴクラフトは魚介類が嫌いで、猫が大好きでしたから、彼の小説において魚介類系の存在(水棲生物全般)は人間に害する化け物達で、逆に猫達は猫を愛する人間を化け物から護ってくれる存在です。人間にとって悪夢的な存在ばかりが全面的に登場するラヴクラフトの小説において、猫だけは極めて珍しい役柄、『猫=人間を不思議な力で護り助けてくれる愛すべき存在』なんですね。ちなみに猫に助けてもらえるのは猫を愛する人間だけでして、猫を虐める連中には彼の作中において恐怖に満ちた死が与えられます。こういうところ、僕がラヴクラフトの小説が好きな一因ですね。コリン・ウィルソンが「夢見る力」でラヴクラフトは実に自分に正直にその幻想世界(クトゥルフ神話)を作り上げたと書いていますが、全くその通りだと思います。
「未知なるカダスを夢に求めて」の『猫が不思議な力で主人公を護ってくれる展開』というのは、現在放映中のアニメ「おまもりひまり」を先取りしていますね。おまもりひまりファンにもお勧めです。
参考作品(amazon)
Skin and Wire
ラヴクラフト全集〈6)(未知なるカダスを夢に求めて)
ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))
ラヴクラフト全集 (2) (創元推理文庫 (523‐2))
ラヴクラフト全集 (3) (創元推理文庫 (523‐3))
ラヴクラフト全集 (4) (創元推理文庫 (523‐4))
ラヴクラフト全集〈5〉 (創元推理文庫)
ラヴクラフト全集7 (創元推理文庫)
ラヴクラフト全集〈別巻上〉 (創元推理文庫)
ラヴクラフト全集〈別巻 下〉 (創元推理文庫)
萌え萌えクトゥルー神話事典
夢見る力―文学と想像力 (河出文庫)
栞と紙魚子 1 新版 (ソノラマコミック文庫 も 16-1)
栞と紙魚子 2 新版 (ソノラマコミック文庫 も 16-2)
栞と紙魚子 3 新版(ソノラマコミック文庫 (も16-3))
玩具修理者 (酔歩する男)
おまもりひまり 限定版 第1巻 [DVD]
おまもりひまり 限定版 第2巻 [DVD]
おまもりひまり 限定版 第3巻 [DVD]
おまもりひまり 限定版 第4巻 [DVD]
おまもりひまり 限定版 第5巻 [DVD]
おまもりひまり 限定版 第6巻 [DVD]
おまもりひまり 1 (角川コミックス ドラゴンJr.)
おまもりひまり 2 (角川コミックス ドラゴンJr. 101-2)
おまもりひまり3 (角川コミックス ドラゴンJr. 101-3)
おまもりひまり4 (角川コミックス ドラゴンJr. 101-4)
おまもりひまり5 (角川コミックス ドラゴンJr. 101-5)
おまもりひまり 6 DVD付き超限定版 (ドラゴンコミックスエイジ)
おまもりひまり 0 (角川コミックス ドラゴンJr.)
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ラヴクラフト全集〈6)(未知なるカダスを夢に求めて)
今回は僕の好きなピアノ・アンサンブル「ピアノ・サーカス」(Piano Circus)をご紹介しようと思います。「ピアノ・サーカス」は前衛的な現代ピアノ音楽を演奏する為に1989年に設立されたアンサンブルでして、奇怪としか言い様のない異様なピアノ音楽曲の数々をリリースしてきたヘンテコなピアノ・アンサンブルです。僕の好きな現代音楽作曲家マックス・リヒターが演奏メンバーの1人として参加しています。彼らはプリペアド・ピアノは使わず、あくまで調律された普通のピアノを使って異様なピアノ曲を演奏しまして、聴いていると異次元に引きずり込まれて精神が崩壊しそうになるような、音楽として全てが狂っている曲の数々は一種のトリップ感があり、僕の好きなアンサンブルですね…。アルバム「セクステット」から引用致します。
ピアノ・サーカスは男女三人ずつの若手ピアニストによって1989年初めに結成されたアンサンブル。1990年7月に、ニューヨークのリンカーン・センターでデビューし、8月にはエディンバラ音楽祭に出演。6人のメンバーは、カースティーン・ダヴィッドソン・ケリー、リチャード・ハリス、ケイト・ヒース、マックス・リヒター、ジニー・ストロウソン、ジョン・ウッドです。アメリカのミニマル・ミュージック、そしてその流れを汲むイギリスの実験音楽や環境音楽などを主なレパートリーにしていますが、ジャズやアフリカ音楽、ロックやポップス、電子音楽など、多種多彩な音楽体験を重ねており、新しいプロジェクトに意欲的に取り組む音楽思想を持ち合わせています。彼らは知性と感性のバランスがよくとれたアンサンブルで、6台のピアノが独特の音空間を形成しながら、現代音楽の新しい可能性と精緻な妙技を聴かせてくれます。
(ピアノ・サーカス「セクステット」ライナーノーツより)
彼らのピアノ演奏は、スティーヴ・ライヒとかの聴きやすい有名音楽も演奏していますが、大体においては理解を絶した奇怪な前衛ピアノ音楽でして、聴いているとまるでラヴクラフトのクトゥルフ神話作品や日本で言えば小林泰三さんのホラー小説や諸星大二郎さんのホラー漫画を読んでいるかの如き、異次元的変容を感じる異様なピアノ音楽体験をすることになります。彼らが演奏する奇怪なピアノ曲「1-100」(作曲はマイケル・ナイマン)などは生理的な不快感がこみ上げる異様な無調音楽でして、聴いていると実に悪夢的、不条理ホラー的な体験をすることになります。エーリッヒ・ツァンが作曲した音楽を聴いているかのような感覚ですね…。
H・P・ラヴクラフト著「エーリッヒ・ツァンの音楽」
http://www.asahi-net.or.jp/~YZ8H-TD/misc/ErichZannj.html
その後私は毎夜、ツァンの演奏を聞いた。それはこの世の物とも思えない音楽で、とても眠れるようなものではなく、私は取り憑かれてしまったのだ。音楽芸術には疎いのだが、その和声はそれまでに聞いたいかなる音楽とも関連がなかったと断言できる。彼は極めて独創的な作曲家だったのである。
電子音楽機器を使い生理的に悪寒吐き気を催す異様な音を出す奇怪な曲の数々を作曲したクセナキスの現代曲とは違い、ピアノ・サーカスの奏でる曲は全てきちんと調律されたノーマルなピアノのみを使って奇怪なる音を出している(たまに電子オルガンも使っていますが…)のが凄いところでして、ピアノという楽器の新たなる悪夢的可能性を開いたと言えるでしょう。彼らが演奏する異様な曲を聴いていると『なぜ人間は十二平均律に基いた美しい音を奏でるピアノを使って、聴衆が吐き気を齎す奇怪にして不条理にして不気味な無調音楽を作曲し演奏するのか…そしてなぜそれを聴いているのか…』との思いに耽らずにはいられません。
なんといいますか、ホラー小説やホラー映画、先に挙げたラヴクラフトのクトゥルフ神話や小林泰三さんや諸星大二郎さんの作品のような、現実変容感のあるホラー作品を鑑賞するという感じを伴った音楽体験として捉えれば、ピアノ・サーカスの演奏はなかなか楽しめるものです。ピアノ・サーカスの為に作曲するアーティストもそれは重々承知しているようでして、例えばピアノ・サーカスの為に奇怪なピアノ曲「3つのダンス」を作曲したロバート・モランは次のように語っています。
ロバート・モラン「(3つのダンスの)最初の2曲は、1940年代のどこか怪しげなダンス・ホールを舞台にしたもので、その中の1つはマイアミにあり、壊れたミラー・ボールが下がり、客もまばらなホールである。そこでは奇妙な「コンボ」という名のダンス・バンドが曲を演奏しているが、彼らはそこにいる誰からも、何者からも距離を置いている。そこは時間が止まったように見える場所、後ろに4歩、右に2歩進んだような場所なのだ。咽喉を潤す飲み物が影の中に浮んで見える。得体の知れない飲み物の入ったパンチ・ボールだ。おそらくグレイトフル・デッドのメンバーでさえ、口に入れる前に一瞬ためらわずにはいられないだろう。」
(ピアノ・サーカス「ニーリング・ダンス」ライナーノーツより)
ピアノ・サーカス、ホラー好きにはお勧めのピアノ・ミュージックですね。これをBGMにラヴクラフトや小林泰三さんの「酔歩する男」や諸星大二郎さんの「栞と紙魚子」などを読むと、異様な作品世界同士がベスト・マッチし、悪夢的異次元的ドリームワールドへの読書体験が味わえると思います。
時の始まり以来、僅かに三人の人間の魂のみが、ドリームワールドへ渡ったに過ぎず、そしてそのうち2人は完全なる狂気となって帰還したのだ。その旅路は、予見不可能の諸々の危機に満ちており、そして、いかなる夢も到達しえない、秩序ある宇宙の外側にて、禁断の言語を吐き散らす、あの戦慄すべき終極の危機、全き無窮の中心で冒涜的言辞を吐きながら踊り狂う奈落の深淵の向こうの狂気、あの最後の得体の知れぬ破滅の妖気、すなわち、誰もがその名を口にすることを忌む果てしなき魔王アザトース、汚らわしき太鼓の押し殺したような苛立たしき音と、呪われた笛のか細く単調な音の中で、時空を超越した想像を絶する明かりなき深奥で、貪欲に喰らい散らす魔王が存在し、その忌まわしき太鼓や笛の音に合わせて、ゆっくりと、不気味に、愚かしく踊る、巨大な究極の神々、盲目、唖、陰欝、痴愚の<異形の神々>がおり、そして、その魂にして使者、這いよる混沌、ニャルラトホテップが待ち構えているのだ。
(ラヴクラフト「未知なるカダスを夢に求めて」)
「未知なるカダスを夢に求めて」は、猫大好きな愛猫家で、猫と一緒に1人暮らしをしていたラヴクラフトが、『大好きな猫達をパートナーにして一緒に夢の国を大冒険!』という彼自身の夢のファンタジーを満足させた作品でして、猫好きでホラー好きのお方々は一読の価値のあるファンタジーホラー小説だと思います。ラヴクラフトは魚介類が嫌いで、猫が大好きでしたから、彼の小説において魚介類系の存在(水棲生物全般)は人間に害する化け物達で、逆に猫達は猫を愛する人間を化け物から護ってくれる存在です。人間にとって悪夢的な存在ばかりが全面的に登場するラヴクラフトの小説において、猫だけは極めて珍しい役柄、『猫=人間を不思議な力で護り助けてくれる愛すべき存在』なんですね。ちなみに猫に助けてもらえるのは猫を愛する人間だけでして、猫を虐める連中には彼の作中において恐怖に満ちた死が与えられます。こういうところ、僕がラヴクラフトの小説が好きな一因ですね。コリン・ウィルソンが「夢見る力」でラヴクラフトは実に自分に正直にその幻想世界(クトゥルフ神話)を作り上げたと書いていますが、全くその通りだと思います。
おそらく未来の世代は、ラヴクラフトが「象徴的に真実」な作家であると感じるであろう。
(コリン・ウィルソン「夢見る力」)
カーターは指揮官猫たちと柔らかな猫語で会話を交わして、彼と猫の種族との古くからの親交はよく知られ、猫の集会で度々話題になっていたことを知った。カーターがウルサーを通過したとき、彼は既に注目されていたのであり、そのつやつやした老猫たちは、黒い子猫を邪悪な眼差しで見つめていた飢えたズーク族を倒した後、カーターが自分たちを可愛がってくれたのを覚えていたのである。そして彼らはまた、宿屋の彼のところにやってきた子猫を彼が歓迎してくれたことも覚えており、朝、子猫が出てゆく前に、受け皿にたっぷりのクリームを与えてくれたことも覚えていたのである。
その子猫の祖父が現在の猫部隊の司令官であったが、それ(猫達がカーターを助けた)というのも、彼は遠くの丘から邪悪なるものどもの行列を見、その中に囚われている捕虜(カーター)が、地球や夢の国において自分の種族の盟友であることを知っていたからである。
(ラヴクラフト「未知なるカダスを夢に求めて」)
「未知なるカダスを夢に求めて」の『猫が不思議な力で主人公を護ってくれる展開』というのは、現在放映中のアニメ「おまもりひまり」を先取りしていますね。おまもりひまりファンにもお勧めです。
参考作品(amazon)
Skin and Wire
ラヴクラフト全集〈6)(未知なるカダスを夢に求めて)
ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))
ラヴクラフト全集 (2) (創元推理文庫 (523‐2))
ラヴクラフト全集 (3) (創元推理文庫 (523‐3))
ラヴクラフト全集 (4) (創元推理文庫 (523‐4))
ラヴクラフト全集〈5〉 (創元推理文庫)
ラヴクラフト全集7 (創元推理文庫)
ラヴクラフト全集〈別巻上〉 (創元推理文庫)
ラヴクラフト全集〈別巻 下〉 (創元推理文庫)
萌え萌えクトゥルー神話事典
夢見る力―文学と想像力 (河出文庫)
栞と紙魚子 1 新版 (ソノラマコミック文庫 も 16-1)
栞と紙魚子 2 新版 (ソノラマコミック文庫 も 16-2)
栞と紙魚子 3 新版(ソノラマコミック文庫 (も16-3))
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