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青い文学第九話「走れメロス 前編」視聴。素晴らしい出来でした、オリジナル要素も最高にgoodです!!オリジナル要素として、走れメロスを題材に、一人の劇作家が脚本を書いているというメタ作風になっているのですが、この作家が「メロスに逃げられたセリヌンティウス」としての過去の古傷を回想する物語と、走れメロスの舞台劇が、脚本を書いている劇作家を中間として、並走している物語になっていて、構造的に非常に面白く、物語の出来も良く、アニメとしても良く出来ています。

また、監督も脚本もきちんと太宰治の本を読んでいると感じさせる展開でして、例えば劇作家の過去は太宰の新ハムレットを彷彿させるような要素があり、太宰好きは思わず笑みがこぼれちゃいます。全体的に、太宰の原テキストに基いた上で、なおかつ新しい作品として題材を生まれ変わらせており、素晴らしいですね…。最低最悪の出来だった前回の「こころ」とは打って変わって、非常に優れたクオリティの作品が出来ており、感服致しました。

青い文学は、それぞれの原作ごとに、監督・脚本が違いますが、映像作品に監督・脚本の違いというのは出来映えに対して凄まじいものがありますね…。前回の「こころ」は、「こころ」原作を全く読んでいないと見受けられる、例えるならばウーヴェ・ボル監督(最低映画を作ることで有名な監督)に匹敵するダメ監督の手によって作られた最低の駄作でしたが、今回の「走れメロス」は、例えるならばフランソワ・トリュフォー監督の作品、ヌーヴェルヴァーグの映画を意識したようなイメージ演出が非常に優れておりました。特に、視聴者に対して真正面から向き合って、決して視聴者や時流に媚びず、優れた作品を作ろうと心がけているのが見ていて分かるのが好印象。この、視聴者や時流に媚びず、作品それ自体が質の高いものを作ろうと心がけるのがヌーヴェルヴァーグ(新しい波)の映画諸作品の特徴ですからね…。

視聴者に媚びるというのは、視聴者に分かりやすくするために、作品のレベルを下げてしまうことです。例えば原作を無理矢理改変して、誰にでも分かる単純な筋書きの作品にしてしまうようなことですね。前回のアニメ版「こころ」はまさにそれでして、「こころ」のKの自殺の理由が視聴者に分かりにくいという製作者側の勝手な思い込み(製作者側の読解力不足)から、「Kがお嬢さんと情交を結び駆け落ちの約束までしていた仲だったがお嬢さんに裏切られ、失恋で死んだ」というどうしようもないプロットに原作が改変されています。原作を読めば、Kの自殺は失恋などという単純なことではない、ということは分かる筈なのですが、そういった描写ができないか、そういった描写は視聴者には高度すぎるという視聴者の程度を馬鹿にした発想を製作側がしたのでしょう…。

フランス映画でもこういったレベルを下げる動きがあったのを(似たような展開・作風のロマンスが増加した)、今一度、映画自体の質を重視するという観点から、フランス映画を新しく作ってゆく動きになったのが、ヌーヴェルヴァーグの映画運動です。視聴者受けを重視するのではなく、あくまで作品の質を重視するという観点から、ストーリーやカメラワークをそれ自体としてより優れたものにしようという試行錯誤が行われました。今回の「走れメロス」を見ていて思いだしたのは、僕はトリュフォーですね。不安定で繊細な心の揺れ動きのイメージを決して大仰にではなく、あくまで細やかに丁寧に演出している。本作ではストーリーもカメラワークもイメージの演出もメタな二重性を意識しており、舞台劇としての「走れメロス」の舞台と、舞台劇「走れメロス」の脚本を書いている劇作家のセリヌンティウス的な過去の回想を、今の劇作家を中心としてイメージを重ね合わせて演出しているのが見事に上手いです。メロスの旅立ちのシーンで、劇作家の回想としての旅立ちの汽車のシーンが挿入される演出は見ていて震えが来ましたね。映像作品として実に素晴らしいです。こういう優れた監督・脚本家がいると日本のアニメはまだ頑張れると感じられて一アニメ好きとして嬉しいですね…。

また、走れメロスにおけるメロスとセリヌンティウスの友情に同性愛的なファクターを読み込むというのは、解釈として悪くないと思いますね。この作品では、それを上手く、「裏切られたセリヌンティウス」であるところの劇作家の過去に織り入れている。上手で見事な演出、とても良く出来ています。

「走れメロス 前編」、非常に良い出来です。今までの青い文学のなかで一番高く評価しています。後編が今からとても楽しみです。

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